ビジネス

2022.05.31

ビジネスにも生きる「多様性体験」1日1ダイバーシティ

昨年3月に国連が発表した幸福度ランキングによると、日本の幸福度は世界56位。6つの項目の合計点で順位付けされるのだが、日本が上位10カ国と比べ下回っていた項目のひとつに「寛容さ」がある。あらゆるシーンで「不寛容さ」を感じる昨今、互いを理解し、歩み寄ることでこれまで見たことのない景色が見えるはず。ビジネスでも、シナジーが生まれるはず。そんなことを期待して提案するのが「1日1ダイバーシティ」だ。


世界でダイバーシティ&インクルージョンがさけばれ、各企業には「チーフダイバーシティオフィサー」なんて役職がどんどん登場している。頭ではわかっていても、いざ自分とはまったく違う文化やバックグラウンドや主義の人がチームに来たり、同僚や部下になると戸惑う人も多いかもしれない。違いを生かして1+1=3や4と言った結果を生み出さないといけないなら、なおさら。自分が体験したことのないことを理解することはとても難しい。ならば、体験してしまえ! というのが今回のご提案。

もちろん、その人の人生をいまから生きるのは不可能だ。でも、疑似的に自分とは違う誰かの身になって、その生活をミニ体験することは難しくない。例えば一日だけでもOK。その人の見ている世界が少しばかり体験できて、理屈ではわからなかったことがじんわりと身に染みるに違いない。

ためしにできそうな体験


まずは私の身近なところで考えてみる。例えば、「1日ベジタリアン」はどうだろう? 世界はプラントベースな生活に向かっているなか、日本の好き嫌いをしない文化において菜食主義者として生活するのはまだまだ肩身が狭い。私も魚介は食べるけれど、お肉は食べないペスカタリアン。

何が食べられて、何が食べられないのか。卵は? 乳製品は? ゼラチンは? やっぱりベジタリアン専用のお店じゃないとダメ? 最初はみんな戸惑う。でも一日だけお肉を食べないと決めて生活したら、いつも手にしているあのサンドイッチの原材料をじっくりみたり、行きつけのあのお店には食べられるものがないと気づいたり。

左利きの世界を体験する「1日左利き書道クラブ」。私は左利きだが、世界は右利き用にできているとよく感じる。でも、これに気づいている右利きの人は少ない。改札からスマホの電源ボタン、漢字もそのひとつである。私がいちばんストレスだったのは、学校での書道の時間。左手に筆を持ってみると、トメハネも引っかかってうまく書けない。左から右に書く線のカタチもぎこちない。

それどころか、先生は筆を右手で持たせようとする。それによって具合が悪くなった左利きもたくさんいるだろう。もし、左利きが左手で思いきり書を書いたら?右利きが左手で書いて、具合の悪さを体験したら? きっと、右利き中心の世界に対する見方も変わっていくに違いない。利き手に関係なく、自分らしくいられる世界にいっそう近づくかもしれない。

オフィスでのジェンダーバイアスを理解するための「1日男女比入れ替え会議」。私はときどき、女性ひとりだけの会議に居合わせる。すると、つい「女子代表」という見方をされることも多い。では逆に、女性のなかに男性ひとりという打ち合わせの日をつくってみたらどうだろう。「男子ってこういうの好きだよね?」「男子的にはどうなの?」「男子要員として、ただ座っていればいいから」と接してこられたら、日頃発する言葉や態度を見直す機会になるかもしれない。
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文=キリーロバ・ナージャ イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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