現在、米民間企業従業員の12人に1人は、ゴリサノの会社を通じ給与を受け取っている。事業が実を結ぶまでには何年もかかり、ゴリサノは最初の6年間は個人の給与を受け取らなかった。だがペイチェックスは現在までに、時価総額約400億ドル(約5兆円)以上の企業に成長した。
私は最近、ビデオ会議でゴリサノを取材し、彼の新著『The Italian Kid Did It』について話を聞いた。同書は、ゴリサノがニューヨーク州ロチェスターでイタリア人移民の息子として育ち、成功を勝ち取るまでをつづった回顧録だ。自伝であると同時に、起業のアイデアがある人に対する自己啓発書でもある。
ゴリサノはスペシャルオリンピックスなどの慈善活動に数億ドル(数百億円)を寄付しているほか、新興企業にも投資している。成功するアイデアを見極める上で特に重要なのは、創業者だという。
「事業を拡大する際は、騎手を信じる必要がある」とゴリサノ。「馬の乗りこなし方と勝つ方法を騎手が理解していなければ、馬がどれほど速く走れても意味はない」
ゴリサノが注目する起業家の資質としては、業界の知識、熱意、しっかりとした労働倫理、市場の大きな機会を特定する能力などがあるが、最も重要なのは「自分が作るものを売ることができるか」だ。「多くの起業家はこのわなにはまる。キャッシュフローに問題があると思い込むが、実際の問題は営業だ」
正式な肩書に「営業」がつかない起業家やビジネスリーダーの多くは、売り込みは「営業担当者」に任せるべきだと考えているが、実際には全員が営業を担っていることに気づいていない。