北朝鮮コロナ危機、異常に低い致死率の背景は?

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新型コロナウィルスへの感染が確認された北朝鮮で、不可思議な現象が起きている。朝鮮中央通信は22日、新型コロナへの感染状況について、「減少傾向にあり、安定的に抑止、管理されて全般地域で回復者が増加する肯定的な推移を示している」と伝えた。同通信は、北朝鮮で「4月末から原因不明の熱病が全国的範囲で爆発的に拡大」とも報道していた。報道が正しければ、北朝鮮では発生から1カ月足らずで新型コロナ感染者の数が減り始めたことになる。

朝鮮中央通信によれば、北朝鮮での1日あたりの「新規発熱者」は、5月20日発表分(18日午後6時から19日午後6時までの集計)が26万3370人あまり、同21日が21万9030人あまり、同22日が18万6090人あまりとなっている。報道だけに限ってみれば、14日午後6時から15日午後6時までの39万2920人余りがピークだったようで、そこから1週間で5割以上も減っている。

日本の場合、第6波は、2022年に入ってから急拡大し、一日の新規感染者数は2月5日にピーク(約10万5600人)を迎えた。その後は緩やかに減少傾向をたどり、3月半ばすぎまでに半減し、5月21日の新規感染者は35922人となっている。北朝鮮の人口は2300万人から2500万人程度だから、日本よりも感染の規模は大きいといえるが、改善のスピードも非常に速いと言える。

金正恩朝鮮労働党総書記は、中国の「ゼロコロナ」政策に従う考えを表明。12日から全国規模で厳格な隔離措置(ロックダウン)を始めていた。その効果が上がってきているのかもしれない。ただ、朝鮮中央通信の報道をみると、もう一つわからないことがある。死亡者の数だ。

24日の朝鮮中央通信の報道によれば、4月末からの累計は、発熱者が294万8900人あまりで、死者は68人(致死率0.003%)だという。世界平均の致死率1.2%や、お隣の韓国の0.13%と比べ、圧倒的に低い数値だ。今、流行しているオミクロン株が弱毒化しているという側面はもちろんあるだろうが、北朝鮮では新型コロナのワクチン接種が始まっていない。2回接種率が約87%、3回接種率も約65%に達する韓国に比べて、コロナ感染者の重症化の危険が高いと言えるだろう。

また、国連食糧農業機関(FAO)などの2021年版報告書によれば、18~20年にかけ、北朝鮮では、総人口の42.4%を占める1090万人が栄養不足の状態に置かれている。結核患者数も100万人規模とされるほか、衛生状態も非常に悪い。「発熱者」には、新型コロナ感染者以外の患者も含まれているだろうが、複数の韓国政府関係者は「にわかには信じられない数字だ」と語る。
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文=牧野愛博

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