ビジネス

2022.05.26 14:30

43カ国の学生がビジネスに挑戦 日本代表が体験した「世界への道」

2022年3月。レッドブルが主催する革新的なアイデアの実現と次世代のイノベーター育成を目指すプログラム、「Red Bull Basement」のフィナーレであるGlobal Finalがトルコ・イスタンブールで行われた。すべてのプログラムが終了した、その日の夜に行われたパーティでは世界43カ国から集まった学生が解放感のなか親交を深める。そこで突然、悪ふざけのように胴上げが始まった。学生たちの手で空へ投げ上げられていたのは、日本代表チームNCMSの笠井涼平だった。

Red Bull Basementは、学生に3つのチャンスを提示するプロジェクトだ。彼らは未来にポジティブな変化を起こすディスラプター。自分たちの声を世界に届け、そしてスキルと野心を示し、より良い世界を作り出す。そんな機会を与えることを目的にしている。世界各国で開催される予選セッションでは自分たちのアイデアを60 秒以内の動画で提出、それらが各国のジャッジパネルにより審査され国の代表を決定する。代表に選ばれたチームはインターナショナルなメンターシッププログラムを活用しながら自分たちのアイデアを磨き上げ、フィナーレであるグローバルファイナルに参加。世界各国のファイナリストチームたちとともにワークショップに参加したり、世界で活躍するビジョナリーからのアドバイスを受け、最終日にはプレゼンテーションを行い、グローバルウィナーを決める。

日本代表チームであるNCMSは、三重大学の笠井涼平と広島大学の副田幸暉のふたりが結成したチームだ。彼らの当初のアイデアは、ノイズキャンセリング機能付きのカーテンレールで個人の独立した静かな空間を保つというものだった。

彼らのアイデアの実現可能性を高め、そして社会的な必要性といったバックボーンを強化すべくメンタリングを行うのは、元Facebook Japan執行役員の馬渕邦美とマクアケ・専門性執行役員/R&Dプロデューサーの北原成憲。毎週木曜日朝にメンタリングセッションを行い、ビジネスアイデアとしての強度を高め、実現のための方策を練っていく。


左から、マクアケ・専門性執行役員/R&Dプロデューサーの北原成憲、元Facebook Japan執行役員の馬渕邦美、そしてNCMSの笠井涼平、副田幸暉。オフライン、オンラインのメンタリングだけでなく、Slackのグループで日々メンタリングを受けがらビジネスプランを練り、プレゼンテーションの準備を進めた。(c)Suguru Saito / Red Bull Content Pool

「最初のころは、自分たちの取り組み方が甘くて、毎日たくさんの会議を行うような一流の方がせっかく時間を割いてくださっているのに、確保してもらっている時間を余らせてしまうこともありました」。メンタリングを始めた2021年の11月ごろのことを笠井はそう振り返るが、笠井と副田の2人は馬渕と北原の指導に必死にくらいついていった。

そんな彼らの真剣さは、NTTソノリティからの技術提供として実る。個人のための静音空間という彼らのアイデアは、NTTソノリティが開発を進めているPSZ(Personalized Sound Zone)技術に極めて近いもの。北原の紹介によりNTTソノリティを訪問した笠井と副田は、実現可能性のあるプロダクトの可能性を探った。そしてNTTソノリティからは、プレゼンテーションに技術協力として名前を載せる許可を得ただけでなく、グローバルファイナルにもっていくプロトタイプを貸してもらうことができた。

「NTTソノリティの福井勝宏イノベーション部長には、世界大会に出場する日本代表チームということをすごく面白がってもらい、その後もメールで質問に答えてくれたり、技術を惜しげなく提供してくれたりと期待を感じました」と、副田は振りる。

当初彼らのアイデアは、カーテンレールに内蔵するスピーカーから室内の人間の耳に外部ノイズと逆位相の音を届けるというものだったが、現在のPSZ技術が応用できる可能性が高い、もち運び型デバイスへと方針を転換。チーム名も「NCCR(Noise Cancelling Curtain Rail)」から「NCMS(Noise Cancelling Moving Space)」へと変更。
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文=青山鼓

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