ビジネス

2022.05.24 10:00

「上下ではなく横並びの関係を」富士通のアフターコロナの働き方

赤松光哉 富士通総務本部ワークスタイル戦略室長(左)と岡安明香 富士通イノベーションサーキットセンター(右)

テレワーク推進と同時に、社員の自律性の尊重へとマネジメントのかじを切った富士通。体験型オフィスの裏側には、社員の向上心や主体性を後押しするとの誓いがあった。


オフィスフロアに入り、小さなボードに手のひらをかざすと自動ドアがスッと開く。スマホの画面には、社内アプリからレコメンド・メッセージが届く。

「今日出社しているこの人たちとつながってみませんか」

富士通が2021年7月に開設したオフィス「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」(川崎タワー)で繰り広げられている日常の一コマだ。

「オフィスは、そこでしかできない体験を提供する場所であるべきだ」。そう話すのは、富士通総務本部ワークスタイル戦略室長の赤松光哉。同社が提唱する新しい働き方のコンセプト「Work Life Shift」の陣頭指揮を執る人物のひとりだ。

富士通では、コロナ禍を機にテレワークを一気に推進した。同時にマネジメント方針を見直した。社員を信頼し、自律性を尊重する方向へとかじを切ったのだ。

「これからの企業と社員は、横並びの関係になるべきだと思っています。企業からの依頼を社員がこなして給与をもらうという上下関係ではなく、社員は自律的に働き、企業は社員に成長の機会や場所を提供する。社員が成長することで企業も成長できる」(赤松)

そう考えたとき、場所と働き方の関係性はどうあるべきか。富士通が出した答えは、個人ワークは自宅やサテライトオフィスで行い仕事の効率化や暮らしの満足度を高め、オフィスは多様な人や技術とのコラボレーションの場にすることだった。働く場所と時間は自ら主体的に選べる。そう実感できることが社員のウェルビーイングやエンゲージメントの向上につながるとの考え方だ。

この仮説に基づき、21年10月に掲げた「Work Life Shift 2.0」では、オフィスのあるべき姿を具体化した。キーワードは「エクスペリエンス・プレイス」だ。

まず、川崎タワーのオフィス全体を実証実験の場ととらえ、社内外の最新テクノロジーやツールを社員に体験してもらう。例えば生体認証システムだ。入退室からコピー機の利用、食堂の精算まで、オフィス内のすべての認証を手のひらで行う。

「実際に体験すると、その便利さなどがわかる。社員の経験値が上がり、新たなアイデア創発の機会にもなる」(赤松)

オフィスを新たな出会いの場にする仕掛けも用意した。それが、入社4年目の岡安明香が企画・開発リーダーを務める社内アプリ「aerukamo」だ。

aerukamoの特徴は2つだ。1つは、社員の出社の予定を事前に把握したり、誰が出社しているかを一覧することができたりする点。もう1つは、社員との新たな出会いを促してくれる点だ。アプリが会社に登録しているプロフィールや過去の職歴などのデータを自動的に収集・同期し、趣味が同じ人や共通の知り合いがいる人などをAIがマッチングする。
次ページ > 社会課題の解決に生かす

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

なぜ「働く」のか?

ForbesBrandVoice

人気記事