重要な役割を担うドーパミン 感情の処理認識にも関わっている?

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ドーパミンは、脳の報酬系で重要な役割を担っていることから、神経伝達物質のなかでも特によく知られている。昇給や、おいしい食べもの、セックスなどの「報酬」、つまり満足感をもたらす刺激に脳がさらされるたびに、脳内のドーパミン分泌量が増加する。そうしてつくられたドーパミンは、複数の経路を通じて、中脳領域から、脳の他の領域へと運ばれる。

報酬系におけるドーパミンの重要な役割はさまざまな科学研究で詳しく検証されてきたが、「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」で発表された新たな研究では、ドーパミンが感情の認識にも関わっていることが示された。

パーキンソン病や統合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)といった神経学的疾患の患者では、ドーパミン量に乱れが生じており、それにより、社会的認知のいくつかの面で苦労する場合があることが知られている。ここで言われているのは、他者や自分自身の行動をめぐる情報の処理、保存、適用などのスキルの助けを借りて、社会的状況のなかでうまく振る舞う能力のことだ。そうした能力は、人間の日常的な社会交流において重要な役割を果たしている。

2000年代前半や後半に実施された先行研究でも、ドーパミンが人間の感情処理を複数のレベルで調整している可能性が示唆されていた。それに関係する領域としては、偏桃体(情動行動やモチベーションを司る脳領域)、前頭前皮質、記憶と学習の機能を仲介する内側側頭葉が挙げられる。

これまでの研究では、感情処理の際には、この3領域で放出されるドーパミンが互いに連絡しあっていることが示されており、そうしたコミュニケーションをドーパミンが促進している可能性が示唆されていた。

動物を対象とした過去の研究では、ドーパミンが恐怖の処理に関わっている可能性が示されている。前述の「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」の研究では、重い精神疾患の既往歴がない健康な人を募った。参加したのは成人男女33人だ。

参加者たちは、ハロペリドールと呼ばれるドーパミン受容体遮断薬を摂取するよう指示された。この薬は、一般には統合失調症やその他の気分障害の治療に用いられるものだ。自殺予防のために処方される場合もある。

参加者には、ある1日にハロペリドール2.5mgを、別の日にプラセボの錠剤を摂取したあと、感情認識タスクをひととおり実施してもらった。これには、さまざまな聴覚刺激の処理を伴う運動および計数ベースのタスクが含まれる。

研究チームは、ビデオ録画を通じて、タスク実施中の参加者の感情表現方法を綿密に分析した。感情の評価にあたっては、参加者の姿勢と歩き方を調べた。たとえば、ゆっくりした動きは悲しみを示し、唐突なすばやい動きは怒りやフラストレーションを表している、といった具合だ。

また、タスク全体を通じてベースラインのドーパミンレベルを追跡し、参加者の作業記憶(短期記憶)も分析した。ベースラインのドーパミンレベルを基準にすれば、各参加者のハロペリドールに対する反応の違いがわかる。

ドーパミンレベルの低い人では、ハロペリドールによって感情認識能力が高まった。それに対して、もともとドーパミンレベルの高い人では、社会認識能力が低くなった。

研究チームは、論文のなかで次のように述べている。「本研究の知見は、ドーパミンが経時情報処理を通じて感情認識に影響を及ぼす可能性を示唆している。これは、定型的および非定型的な感情認識に関する今後の研究に、新たな指針を提供するものだ」

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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