最初にバズったのは、2020年11月に投稿した4本目の動画だった。こがらし輪音の『冬に咲く花のように生きたあなた』(メディアワークス文庫)を紹介したもので、本書は刊行から1年以上経っていたにもかかわらず重版となった。
また、2021年7月に投稿した動画では、30年以上前に発表された筒井康隆の『残像に口紅を』(中公文庫)を紹介して大きな話題に。重版に次ぐ重版で、年末までに11万部以上が売れた。
「何度かバズる経験をしてからは、『いいね』の数や再生回数などの数字に固執していた時期もありました。ただ、視聴者やフォロワーが僕を見てくれているのは、僕が純粋に好きな作品を紹介しているからだと思い直しました。今は数字にはこだわらず、『楽しんで紹介しよう』というマインドでやっています」
ストーリー着想は視聴者のコメントから
いまやフォロワー28万人、総再生数1.1億回を超える大人気クリエイターは、なぜ小説を書く側にまわろうと思ったのか。
「小説は“読むもの”と思っていたので、書きたいと思ったことはなかったですし、周りから冗談半分で書いてみなよと勧められたときも、書けるはずないと思っていました。去年の9月に編集者さんからお声がけをいただいたときも3週間ほど悩んだのですが、挑戦してみようと決心しました」
『ワカレ花』は、8編からなる短編の恋愛小説で、四季折々の恋模様を描いている。物語のモチーフとなっている「花」や、ストーリーの重要な鍵を握る「猫」や「本」は、けんご自身が好きなものだ。
初めての小説書くにあたって最初にぶち当たった壁は、テーマ作りだったという。「小説家さんは普通、書きたいものがあって小説を書くと思うんですが、僕は書くことが決まって小説を書き始めたので、書きたいものがどうしても思い浮かばなかったんです」
そこで、参考にしたのがSNSに寄せられる視聴者からのコメントだった。「次は〇〇という作品を紹介してほしい」という具体的に言われることもあれば、「先生と生徒の恋愛を描いた小説を紹介してほしい」といった要望もある。後者のようなコメントから、ストーリーの着想を得ていった。
「普段から僕のSNSを見てくださっている方々の要望を組みとった作品であれば、皆さんが楽しんでくれるじゃないかなと思い、『自分で書いてみよう』と決意しました。この作品は『誰かの読みたい』でつくられた話なんです」