いまや企業にとって、競争優位の源泉は金融資本でなく、希少なリソースである「人的資本」だ──。米コンサル大手ベイン・アンド・カンパニーのパートナー(テキサス州オースティン・オフィス)で組織戦略のプロ、マイケル・マンキンスは言い切る。
テクノロジーにより、企業の成功に必要な「未来のスキル」が激変するなか、リスキリング(学び直し)やデータ主導の人材マネジメントが、なぜ重要なのか。マンキンスに話を聞いた。
──ハーバード・ビジネス・レビュー誌(HBR)2017年3〜4月号の共著論文「資本があり余る時代の競争優位」(邦訳 ダイヤモンド社)で、「生産性向上には優秀な人材が不可欠であり、新時代には人的資本が、優れたパフォーマンスの土台になる」と書いていますね。「人的資本は競争優位を生み出す根源であり、これを金融資本と同様に慎重かつ厳密にマネジメントした企業が、他企業を大きく上回る業績を上げるのだ」と。
かつて金融資本が希少だった時代には、その巧みな配分が、他社との競争に打ち勝つ重要な経営戦略だった。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が好例だ。
だが、金融資本はいまや、あり余っている。競争優位の源泉は、もはや金融資本ではなく、優れた製品やサービスを生み出すアイデアだ。創造性や創意工夫を会社にもたらす「人的資本」である。
共著書『TIME TALENT ENERGY──組織の生産性を最大化するマネジメント』(プレジデント社)で書いたが、米国や欧州、アジアなどの企業を対象にしたベイン・アンド・カンパニーによる15年の調査から、Time(時間)とTalent(人材)、Energy(意欲)が競争優位の源泉になることがわかった。
人的資本のマネジメントに最も長けた上位4分の1の企業は生産性の点で、その他の企業の平均生産性を4割上回った。
そうしたトップ企業では、アウトプット(生産量)が最大30倍に達する可能性がある。時間と人材、従業員の自発的なエネルギーを効果的に生かすことができれば、生産性が飛躍的に伸びる。
──別のHBR共著論文「データ主導の人材マネジメントを実践する方法」(21年9〜10月号)で、組織変革を成功に導く6つの要因を示していますね。2つ目は「優秀さの条件を再定義する」です。
コロナ禍以前から、テクノロジーにより、競争優位性の源泉が大きく変わり始めていた。
例えば、保険業界では、保険数理が競争優位の核となる能力だったが、いまでは先端データ分析やビッグデータサイエンスが「未来の必須スキル」になりつつある。自動車業界ではソフトウェア工学のスキルが競争優位の源泉となった。
だからこそ、「優秀さの条件を再定義する」ことが重要なのだ。優秀なデータサイエンティストとはどのような人材かという定義づけが、まず必要だ。
というのも、必要な人材をすべて外部から調達するのは非現実的であり、甚大なコストがかかるからだ。既存従業員のなかから人材を選び、リスキリング(学び直し)研修を施し、人材マネジメントの開発を行うほうがいい。例えば、金融アナリストをデータサイエンティストの職種に転換させるといった具合だ。