子育て中の女性が仕事で輝く場をつくり
社会課題の解決と収益を見事に両立
長野県上田市は人口15万4,134人(2022年4月1日現在)を数え、長野市、松本市に次いで長野県第3の都市とされている。はたらクリエイトの創発的な歴史は、上田で2012年に井上拓磨が立ち上げたコワーキングスペースから始まった。
「施設をつくってみたら、『出産を機に仕事を辞めてブランクがあるけれど働きたい』『子育ても大事にしながら、仕事を通して社会とつながりをもちたい』といった女性がとても多いことに気づきました。それはすなわち、『地方では女性がキャリアアップできる職業の選択肢が少ない』という社会課題との出合いでもありました」
「子育てしながらでも仕事を楽しみたい」という切実なる声の顕在化に直面して「子育て中の女性の社会復帰モデルづくり」を開始したのだと創業者の井上は語る。
「女性と社会をつなぐ仕組みは、これからの地域にとって絶対に必要なものだという確信がありました。現共同代表の高木奈津子と保育士が中心となって地元企業から仕事を受託し、個々の登録メンバーに割り当てて、『マインドおよびスキルの成長を促す研修』と『制作物のクオリティコントロール』を軸にしたトータルディレクションを始めたのです」
こうして子育て中の女性たちが有機的なチームとなって仕事を受ける仕組みが地域にもたらされた。その後は、トライアンドエラーの繰り返しにより、人も組織もブラッシュアップされていったという。立ち上げ当初、メンバーは井上が主宰する一般社団法人と業務委託契約を結んでいたが、17年に同法人が「株式会社はたらクリエイト」へと形態を変えてからは、正規雇用を含むさまざまな選択肢を選べるようにした。
「株式会社化は、従業員の人生によりコミットしていく決意でもありました。近隣の企業は製造業が中心で外注できる業務が限られており、首都圏の中堅・大手企業を対象にして付加価値の高いオフィス業務を代行する方向へ舵を切りました。お客様のご要望以上のパフォーマンスをご提供することで、私たちの価値そのものもブラッシュアップできるように日々精進を重ねています」
いま、はたらクリエイトは県内にふたつの拠点を構えている。15年に開設した上田オフィスに続いて、19年には同県の佐久市にもオフィスを立ち上げた。どちらにも託児所を備えていて、「朝には子どもと出社し、昼には広々としたスペースで一緒にごはんを食べて、夕方になると手をつないで笑顔で退社する」という理想のワークスタイルを具現化した光景が日常になっている。子どもの成長に合わせて雇用形態を選択できることも含めて、安心して働ける環境が整備されているのだ。
「『はたらくをクリエイトすることで仕事を楽しむ人を増やす』というのが、はたらクリエイトのミッションです。託児所や就業形態のほかにも心理的安全性を高めるための基盤となる施策があります。その一つが『私の取扱説明書』と呼んでいるものです。米ギャラップ社が開発した一人ひとりの『強み』や『才能』を発見するための診断ツール『ストレングス・ファインダー』により、まずは全社員が自身の資質についての認識を得てから、働くうえでの価値観や強みを記した『私の取扱説明書』に落とし込み、オフィスの壁に貼り出しています。これは理想の人物像を打ち出してひとつの型におさめようとするのではなく、すべてのメンバーのパーソナリティを受け入れ、チームや会社全体で生かそうとする取り組みです」
そう教えてくれたのは、共同代表を務める高木奈津子だ。はたらクリエイトでは、上意下達の統制型組織とは違って、フラットな家族型組織のなかで就業時間的・技術的・資質的な凸凹を補い合い、お互いを気遣い、いかし合う文化が醸成されている。そうしたカルチャーは当然ながら、クライアントに対する気遣いにも生かされているという。取締役CMOの柚木真が同社のサービス内容を語ってくれた。
「いま、私たちは主に首都圏の企業様に雇用でも派遣でもない、けれども社内部署のような感覚で社外に専属チームをつくり、業務をアウトソーシングできる『banso.』というサービスを展開しています。Webメディアのコンテンツ制作のほか、SNS運用やレポート作成、バックオフィス業務、業務効率化のためのシステム構築など、ご依頼いただける業務は多岐にわたります」
クライアント企業の事業成長に伴走したいという想いが凝縮された「banso.」は、何をどのようにアウトソースするか企業側でルールが定まっていない段階からでも、各種の提案を行い、話し合いながら進めることもできる。
そうしたことが可能なのは、はたらクリエイトの従業員に高いスキルとモチベーションが育まれているからにほかならない。そしてそれは、離職率が低い職場で大切に育てられ、「タスクと進捗を常時可視化」して組織としてのフォローアップ体制が整えられてこそ醸成されるものだ。例えば、従業員の子どもの発熱など急なトラブルが発生しても素早くチームで対処できる仕組みがすでに出来上がっている。
いま、はたらクリエイトは、株式会社になってからの年平均成長率が約16%、顧客満足度が約85%、契約更新率が約96%という目覚ましい数字を挙げている。見事なまでに「社会課題の解決」と「事業の成功」を両立させているのだ。
井上拓磨◎2012年、一般社団法人ループサンパチを立ち上げて上田市内に3つのコワーキングスペースを運営するところからスタート。現在、はたらクリエイトでは共同代表取締役CSIO(Chief Social Innovation Officer)の任に就いている。「私の取扱説明書」にある「BEの肩書き」は、「人見知りなワクワクさん」。
高木奈津子◎はたらクリエイトの共同代表取締役CEmO(Chief Empowerment Officer)。「私の取扱説明書」の「BEの肩書き」は、「たまに迷子になる舞台監督」。
柚木真◎はたらクリエイトの取締役CMO(Chief Marketing Officer)。「私の取扱説明書」の「BEの肩書き」は、「登り方にこだわり過ぎる登山家」。
(※BEの肩書き:「私ってこんな人」を表現する肩書きのこと)
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