検査もワクチンも側近が独占、北朝鮮コロナ深刻な背景

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金博士によれば、北朝鮮内でオンラインによる行政連絡網が整備されているのは、平壌や元山、清津、咸興など、10数カ所の大都市に限られるという。検査ができないため、感染の有無を確認できないうえ、リアルタイムで中央政府に報告するネットワークがないため、報告がずれ込んだとみられる。韓国のNGO関係者は「北朝鮮は、コロナにかかることは罪深いことだと市民に教えてきた。市民や地方政府は処罰を恐れ、コロナを疑いながら、中央に報告できなかった事情もあるだろう」と語る。

初動措置に失敗した北朝鮮だが、今後の見通しも非常に暗い。金振武博士は「北朝鮮には結核患者が100万人いると推定されている。でも、北朝鮮には健康診断の習慣がない。自分が結核なのか、高血圧なのか、糖尿病なのかも知らない」と語る。北朝鮮では、自分がコロナ感染で危険な状態に陥る可能性があるかどうかも知らない状態に置かれている。

また、国連食糧農業機関(FAO)などの2021年版報告書によれば、18~20年にかけ、北朝鮮では、総人口の42.4%を占める1090万人が栄養不足の状態に置かれている。集団生活によってコロナ感染が広がりやすい環境にある軍人は120万人ほど。栄養失調に加え、劣悪な衛生状態に置かれ、集団労働などが科される政治犯収容所や一般刑務所などに収監された人々は20万人前後とみられる。こうした人々には、常にコロナ感染の危険がつきまとう。金博士は「韓国でも1カ月足らずで、オミクロン株の累計感染者が1000万人に達した。北朝鮮でも大流行するだろう」と語る。

北朝鮮は現在、コロナ感染の状況を公開している。世界保健機関(WHO)や中国などから検査キットやワクチン、治療薬の支援を得たい狙いがあるとみられる。金博士は「すべて、金正恩の政治工作に使われるだろう」と語る。

金博士によれば、韓国が過去、北朝鮮に支援したコメ、ミカン、松茸などの品々はすべて最高指導者を支える側近たちに分配されたという。金博士は「検査キットもワクチンも、全部側近たちに分配される。北朝鮮の人々はどこまでも不幸な状態に置かれるだろう」と嘆いた。韓国内では今、最悪の場合、北朝鮮でコロナ感染による死者が10万人に達するのではないかと危惧する声も上がっている。

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文=牧野愛博

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