イーロン・マスクがツイッター買収の裏で抱くのは新たな南部連合の復活か!?

Photo by Dimitrios Kambouris/Getty Images for The Met Museum/Vogue


筆者は、マスクは政治思想的にはリバタリアンの系譜に属すると解釈している。リバタリアンとは簡略化して説明すれば、他者に迷惑をかけない限り個人の自由は最大限許され、政府はそれに介入すべきではないという考えを持った人物を指すが、マスクのように一代で大成功をおさめたビジネスパーソンによくあるタイプであろう。

しかし、成功しているか成功していないかにかかわらず、米国の特に白人層には伝統的にリバタリアンが多い。そこには政府の介入を嫌い、自立と自律を尊び、いざというときには自由を侵害したりする政府を倒す権利(革命権)を行使するためには銃で武装することもよしとする文化がある。

トランプを支持したのもまさにその層だったのだが、最近の米国はリベラル化が進み、銃規制、少数派の権利の保全、ポリティカリーコレクトネス(政治的正しさ)、巨大資本による富の寡占が、リバタリアンたちを抑圧する事態にもなっている。

マスクも、少数派の権利を侵害しようとは思っていないだろうし、富を寡占する富裕層の1人ではあるが、やたら意識の高く、ポリティカリーコレクトネスばかりを優先する米政府高官やシリコンバレーあたりのリベラル層に対する苦々しさはあったのではないか。実際、彼のポリコレ嫌いは有名だ。本拠地を、リベラルの牙城であるカリフォルニア州から、リバタリアンが主流のテキサス州に移してしまったのもその現れだろう。

素晴らしいスタートアップを次々と生み出してはいるが、虚業も盛んで、情報産業や知財ビジネス中心のシリコンバレーよりも、ヒューストンやシリコンヒルズがありモノづくりの実業中心のテキサスのほうが、マスクも水が合うという背景もあるのだろう。

さて、そんな彼がツイッターでトランプのような政治的影響力を行使したらどうなるだろう? 再度リバタリアンのアメリカを復活させるために存分に活用するのではないだろうか。それは、もしかすると新しい南部連合(19世紀の南北戦争の際、アメリカ合衆国から離脱した南部諸州が形成した政治連合)のような様相を呈するかもしれない。

リバタリアンが選挙で政権を奪取できるなら願ってもないことだろうし、獲れなくても、テキサスを中心にレッドステート(共和党が強い州でトランプの強固な支持基盤)を独立させてしまえという方向に動くことだってあり得るのではないだろうか。

冗談ではなく、かつての南部連合に属した州は、リベラルで巨大資本が動かすアメリアの現状に嫌気が差して、いまかつてないほど「独立」の気運が高まっている。その気運をツイッターによって加速させれば、自由な企業活動や政治活動のできるアメリカをマスクは実現できる可能性さえあるのだ。

かつてトランプがツイートでアメリカ大統領を勝ち取ったように、マスクも自らの望むアメリカそのものを勝ち取るのが、ツイッター買収の隠れた意図なのではないだろうか。マスクのツイートと、彼が焚きつけている世論の動きを見ていると、そしてそれを牽制しようとしている現在のバイデン政権や、逆にそれを支持するトランプなどの動きを見ていると、何となく筆者はそんな気がしてくるのだ。

連載:ポスト・トゥルース時代の真実を探して
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文=重枝義樹

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