テクノロジー

2022.05.20 07:30

イーロン・マスクのツイッター買収は本当に言論の自由を実現するためなのか?


マスクが実現しようとしている空間とは


しかし、そんなベタな解釈はマスクにはおそらく通用しないだろう。マスクはツイッターのユーザーを煽って、むしろ集団極性化現象を利用してきたという前歴がある。

例えば、すぐに自ら消したツイートだが、先日カナダのコンボイラリーを弾圧したトルドー首相をヒトラーになぞらえた画像を投稿した。カナダの人口の倍以上の9000万人超のフォロワーを誇るマスクがそれをやるのは、各国の保守層やオルタナ右翼を煽るに十分な影響力だ(誤解のないように言っておくとコンボイラリーの参加者はむしろ政治的に穏健な中立派が多かった)。

実際に極左や極右(特に極右)を煽らないよう、ツイッターのみならず、SNSのメガプラットフォーマーは、極端に攻撃的な意見や、(彼らがそうとみなした)フェイクニュースへの検閲を昨今は強めている。

ツイッターなどは、当時、現役のアメリカ大統領であったドナルド・トランプのアカウントをバン(禁止)するという思い切ったことまでやった。となると、集団極性化の防止というものは、マスクがわざわざ買収してやるまでのことではないのだ。

では、彼の言う「アップセット」とは何か? 実は「アップセット」には「怒る」という意味もある。つまり前述のマスクのツイートは次のように言っているとも受け取れる。

「ツイッターが公的に信頼されるためには、政治的に中立でなければならない。それは、事実上極右と極左を平等に怒りに燃えさせるという意味だ」

つまり、検閲をすべて止めて、自由放任の言論を与え、その結果として集団極性化がもたらされたとしても、それこそが公的に信頼されるツイッターなのだと言っているとも解釈できるのだ。

これまでのマスクの来歴や、もともと政府機能を極端に小さくするべきだというリバタリアンであるということを鑑みるに、本当に実現しそうなのは、争いに溢れているが本当に自由な言論空間、差別もあるが本音も臆せず言える公共空間、そんな世界を実現させるために動いていると考えるのが自然だろう。

しかし「アップセット」というのは、両義的で賢いワーディング(言葉の使い方)だ。マスクは、単なるリバタリアンではなく、抜け目のないビジネスマンとして、いざという時の逃げ道をしっかり確保しているとも言える。

文=重枝義樹

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