ある大企業では、男性の育休制度があり、誰も取得することに関して咎め立てたりしないのですが、実際に取る人は少ないままだということです。その企業では、ある男性が子育て中の妻(無職)のために休日の業務をしなかったところ、子どもありの女性社員たちから「奥さん働いていないのになんで?」という反応があったそうです。
これが社内の当たり前という保守的な意識が、性別を超えて植わっているのでしょう。しかも、このような空気は、多くの場合「アンコンシャス・バイアス(自分自身は気づいていないものの見方やとらえ方の歪みや偏り)」であり、自分から変えるのは困難なのです。大企業でもこのような状況ですから、中小企業ではなおさらでしょう。
社会問題を経営革新のチャンスに
職場での男性の育休の取得を難しくしている要因を眺めると、実はさまざまな問題につながってきます。
現況の属人化した業務、生産性の低い長時間労働のままでは、休めない空気は社内に充満してしまいます。そのような職場を持つ企業には優れた人材は来てくれず、従業員のやる気も出ず、定着率も下がります。このような状況が、日本企業の従業員のエンゲージメント(組織との心のつながり)が世界最低水準である一因ともなっています。
非効率で硬直した業務や組織が変わらず、低生産性と人材難が深刻化すれば、企業の将来は危うくなります。「会社の寿命は30年」という言葉もありますが、現状維持のまま進化できないのでは、衰退あるいは消滅していくのが企業の宿命です。
逆に、社員の人生を大切にする企業は優れた人材をひきつけます。業務、マネジメント、コミュニケーションを革新し、休みがきちんと取れる、生産性や創造性の高い企業になることは、会社を繁栄に導くうえでは肝要です。
もちろん、育休への対応だけで済むわけではありませんが、それすらできず、古い体制のままでは、その企業の将来は危ういでしょう。
「日本が消滅する」と聞いて、少子化・人口減を阻止できない政府や政治家はけしからんなどと他人事でやり過ごさず、翻って自分の会社はどうだろうと考えてみるほうが道理に叶っています。そして、このような社会問題からもインスピレーションを得て、経営改革に取り組んでいってはいかがでしょう。そのほうがイノベーティブな進化につながるのではないでしょうか。
連載 : ドクター本荘の「垣根を超える力」
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