作家陣を集めたのは、鹿児島のデザインオフィス Judd.(ジャッド)だ
こういった作家陣を集めたのは、鹿児島のデザインオフィス Judd.(ジャッド)だ。書籍『ぼくの鹿児島案内』(編集:岡本仁、出版:ランドスケーププロダクツ)などの制作に携わり、地元で人気のフリーペーパー『Judd.』も発行している。「鹿児島県には木工・陶芸などの若いクラフト作家が多い」として、代表を務める清水隆司氏も積極的に同イベントに関わった。
「職業柄でもあるんですが、なんらかのカタチでものづくりに携わっている人が周りに多いです。ですので、こういったイベントを実施する際には、補助金をとって展開するのでなく持続可能なイベントにするために、自然な成り立ちでつくり手を巻き込んで、彼らに楽しんでもらうのが良いのではと思います。書類でどうこうではなく、顔と顔を合わせながらね、そういう時に本当の協力者に出会えるんだと思います」
「鹿児島にはクラフト文化がある」と話す清水隆司氏
鹿児島にはクラフト文化があるという清水氏。ものづくりだけではなく、それを買って、使ってと、文化を継承していく土壌もあると分析してくれた。いま、新たに生まれようとしている文化が、「DENKEN WEEK」のような若者を巻き込んだもの。今回、多くの若者が現地を訪れ、現地の方々と交流した。「地元の方々にとっても新鮮だったんじゃないでしょうか」と、清水氏も目を細める。
「出水中央高等学校吹奏楽部」の学生たちも被写体に
武家屋敷に展示されたカメラマン・濱田英明氏の作品。被写体になったのは出水中央高等学校吹奏楽部の学生たちだ。演奏者として今回のイベントに関わる彼女たちも武家屋敷に訪れた。
イベント開催前、主催の株式会社いづる(前・株式会社NOTE出水)の小野氏は、関係者との連携に多くの時間を使ったという。出水本町通り商店街・武家屋敷群の住民・保存会・市・観光特産品協会など、ステークホルダーは少なくない。守ることに長けた地域であるからこそ、最初の一歩目には慎重だ。それでいて、実際にイベントが始まると、人と人、想いと想いがつながりはじめたと小野氏は振り返る。
「開催前は武家屋敷を守るため、懸念も多かったはず。それでも開催前に草刈りをしてくれた方がいらっしゃいました。また、来場者に対して街や作品の説明をしてくださったり、お茶を出してくださったりと……。武家屋敷の造りを活かした展示を喜んでいただき、協力の輪が広がることを実感できました」 混在するステークホルダーたちがそれぞれに── 地域には様々な歴史があり、それを大切に守る者や、再定義してリブランディングする者、そして、それを広く伝える者と、ステークホルダーが混在する。それぞれが同時に同じ絵を描くのはそう簡単ではない。しかしながら、若者が実際にこの地を訪れ、食文化や建物、街並みの魅力に気づく機会が“きっかけ”の一つになったことは、主催者の誰もが認識しているところである。
地域には様々な歴史があり、それを大切に守る者や、再定義してリブランディングする者、そして、それを広く伝える者と、ステークホルダーが混在する。それぞれが同時に同じ絵を描くのはそう簡単ではない。しかしながら、若者が実際にこの地を訪れ、食文化や建物、街並みの魅力に気づく機会が“きっかけ”の一つになったことは、主催者の誰もが認識しているところである。
結果的に、1日100名以上のお客さんが来場した「DENKEN WEEK IZUMI 2022」。「地元のお母さんとお茶会中です」と、笑みをこぼした青年が印象的であった。
上沼祐樹◎編集者、メディアプロデューサー。KADOKAWAでの雑誌編集をはじめ、ミクシィでニュース編集、朝日新聞本社メディアラボで新規事業などに関わる。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科を修了(MBA)し、大学で編集学について教えることも。フットサル関西施設選手権でベスト5(2000年)、サッカー大阪府総合大会で茨木市選抜として優勝(2016年)。