昨年、栗野さんが村瀬さんのブランドを紹介されたとき、はじめてサイトを拝見しました。ぼくはファッションの販売の勘には全然自信がないですが、それなりのお客さんがついているのが不思議に思えなかったです。
そして、中野さんとの対談を読み、村瀬さんとメッセンジャーで交信し、彼の書いたまとまった文章も読みました。そして、村瀬さんも日本の伝統技術を伝えたいという思いは脇に置いておきたいタイプであると知りました。
現時点では、方針やテイストの違うセレクトショップのすべてに入り込める戦略を優先している。しかも、それが過剰在庫になるのではなく、サステナビリティになるアプローチをとっている。とても自然体でものごとを考えています。
「硬い言葉」でビジネスを考えていないのでしょう。最初の5年間、クライアントからの数多の無理難題に対応するなかで学んだだけでなく、ビジネスを立ち上げる前の留学生活で身に着けた生きる術が「柔らかい言葉」を探し当てたのだと思います。あるいは、探し当てざるを得なかった、と言えるかもしれません。
そこで一つ気が付きました。この柔らかさが、新しいラグジュリーをつくるに必要な素質になっているのではないか、と。ビジネスとしてうまくいくかどうかは別として、旧ラグジュリーは、硬い言葉で体系化された世界で定石を踏めばミスが少ないはずです。
しかし、混沌とした新ラグジュアリーでは、ナラティブの連なりで未だ見ぬ風景を探していかないといけません。人や環境の健康が気になる気持ちが根底にあるだけではなく、探索の態度が自ずと人と環境を大切にすることになる。人生観がビジネス方針の根幹をつくる、とぼくは考えています。新ラグジュアリー領域ではそれが真正面からダイレクトに問われる。中野さんの原稿を拝読し、そう認識しました。
連載:ポストラグジュアリー 360度の風景
過去記事はこちら>>