中野:オーガニックですね。人間味のありすぎるものづくりというか。
村瀬:ビジネスモデルとしても、健康的なんです。一般の方には半年待っていただくのですが、先払いをお願いしているのです。今までそれに対しクレームはなく、みなさん気持ちよく払ってくださいます。「届くのを楽しみにしています」と。キャッシュが先にあると動きやすいです。
中野:日本にはそんな商習慣、ないですよね。ドイツの方も先払いしてくださるのですか?
村瀬:いえ、日本の方だけです。ドイツではこのやり方は作用しませんでした。なぜそれが作用しなかったのかを考えているのですが、理由のひとつとして、日本ではマクアケのようなクラウドファンディングのシステムが欧州よりも定着していて、それと同じ感覚なんだろうと思います。
中野:サポーター意識が強いのでしょうね。それにしても村瀬さんはビジネスの始め方から決済のやり方にいたるまで、すべてが独創的ですね。
村瀬:日本のクリエイティブな小さなブランドが海外に出ていくには、商社など老舗企業的なやり方に飲み込まれないで、自分たちのやり方で闘っていく方がいいと思っています。特にパンデミック以降、既存の商流のリセットがさまざまな場面で起きているなかで、過去の経験よりも未来をどれだけ語れるか、夢や想像力をどれだけもっているかが重要と感じています。
中野:海外でビジネスを始めたい日本の方に、助言をするとしたら?
村瀬:海外からは、日本市場は下向きで、縮小に向かっているように見えます。同じものでも、日本にあるのと、異文化の中に置いてみるのと、まったく見え方が違ってきます。それこそ、美術館に置かれたデュシャンのトイレみたいに。
有松絞りも、suzusanを始めた当初、日本ではあと15年持たないとされていましたが、ヨーロッパにもってくるとびっくりするほど高く評価されました。同じものでも、別の文脈においてみると価値が変わるんです。
日本の方は技術、スペックの高さで勝負する面がありますが、それだけでは不十分に感じます。また、総じてコミュニケーションの苦手意識が高いのですが、最終的には人と人との関りの中でビジネスが形成される中でどれだけお互いを理解し合えるか、そこが重要。海外に出るとさまざまな背景をもっている方がいらっしゃいます。異文化を恐れすぎず、どんどん外に出て、チャレンジをしてほしい。
さて、安西さん、日本で廃れかけていた有松絞を異文化の文脈に移し、成功させた村瀬さんのお話、いかが受け止められたでしょうか? 彼の成功の理由として最も光っているなと思ったのが、ヒューマンタッチなコミュニケーション力です。
ネットワークのないドイツでタフに販路を開拓した話を重ね合わせながら、多少の厚かましさも親しさに変えていく力というか、素直に人を信頼することによって信頼に応えてもらう力というか、何か原初的で力強いコミュ力を感じました。これは異文化でのビジネスを助けるだろうなと思った次第です。