同社のマネジメントチームからの依頼を受け、移行プロジェクトの最初期からかかわることになった。まずは、名前に苦労した。グローバル企業の名称変更の場合、世界各国の市場で名称の権利を取得する必要があり、選択肢は非常に狭められる。そこで、リンネマンとチームは、200年前のデンマーク人物理学者、ハンス・クリスティアン・オーステッドの名前に行き当たった。電磁気学の基礎を築いた人物で、情熱と好奇心、自然への敬愛と興味に満ちた人だった。
オーステッド(Orsted)のOはデンマーク文字を使うが、それを逆に利用して、ロゴでは電源のマークにした。英語でも普通の「O」として読むことができ、デンマーク語を普遍的な言葉にすることができた。そして、すべての視覚的タッチポイントを戦略的に構築していった。
「社員たちはこの変化をとてもポジティブにとらえました。以前よりはるかに会社に誇りを持つことでき、組織文化への理解も深まりました。Orstedはいま、世界有数の再生可能エネルギー企業であり、最も働きたい会社のひとつになり、有能な人材を採用することが可能になっています」
リンネマン自身は、子どもの頃から書体デザイン、「タイポグラフィー」に魅せられてきた。「小学校でも教科書に文字の絵ばかり書いていました。それを見て、画家だった私の母親がタイポグラフィーの道に進むように勧めてくれたのです。書体デザインは私のDNAの一部です」
Kontrapunktがブランディングにかかわったデンマーク最大手のエネルギー会社、Orsted。2022年タイム誌の「最も影響力のある会社100 」に選ばれた。
Kontrapunktの2つの拠点は社員が互いに頻繁に行き来し、多くのコミュニケーションを取っている。
「私たちが実際に行なっているのは、恒常的な知識の共有です。ブランドデザインにとって最も重要だと考えるのは『私たちは常に学んでいる、生徒である』という意識です。日本とデンマークの2つの文化を行き来することは多くのことを学ぶ機会となっていて、私たちにとって決定的に重要なことなのです」
19世紀の牧師で教育家、北欧の成人教育機関「フォルケホイスコーレ」の考案者である、N.F.S.グルントヴィの考え方からも大きな影響を受けた。
「『美学』や『物語』の何が重要かというと、それは人間の感情に直接訴えかけるからです。その力は、新しいアイデアや考え方を発展させることができ、大きな変化を可能にしてくれるのです」
ボー・リンネマン◎1953年、コペンハーゲン生まれ。デンマーク王立芸術アカデミー建築学科で建築とタイポグラフィーを学ぶ。1985年Kontrapunktを共同創設。デンマーク官公庁やグローバル企業のブランド・アイデンティティに携わり、多くの国際的なデザイン賞を受賞。