本屋大賞の小説「流浪の月」を映画化。「パラサイト」の撮影監督も参加

『流浪の月』5月13日(金)全国ロードショー(C) 2022「流浪の月」製作委員会 ギャガ


「パラサイト」の撮影監督を起用


映画「流浪の月」のメガホンをとった李相日監督は、1974年の生まれ。大学卒業後、日本映画学校(現日本映画大学)へ入学。卒業制作作品である「青~chong~」 (1999年)が、「ぴあフィルムフェスティバルル(PFF)/アワード2000」で、グランプリを含む4冠に輝く。
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村上龍原作の「6 9 s i x t y n i n e」(2004年)、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「フラガール」(2006年)などを監督して注目を集める。吉田修一原作の「悪人」(2010年)や「怒り」(2016年)も高い評価を受け、実力派映画監督しての力量を遺憾なく発揮している。

「流浪の月」は、その李監督が満を持して6年ぶりに手がけた新作となる。前述のように脚本も担当している李監督は、原作の小説を見事に自分自身の作品として映像へと定着している。そのキーポイントとなっているのが、撮影監督として参加したホン・ギョンピョだ。

ホンは「母なる証明」(2009年、ポン・ジュノ監督)や「哭声/コクソン」(2016年、ナ・ホンジン監督)、「バーニング 劇場版」(2018年、イ・チャンドン監督)など韓国映画の話題作で撮影監督を務め、アカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でも監督であるポン・ジュノの信頼が厚かった。
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実は、李監督とホンを結び付けたのがそのポン・ジュノ監督だったという。李監督が語る。

「2018年に『パラサイト』の撮影を見学に行ったとき、ポン監督が彼を紹介してくれました。そのときは『怒り』が素晴らしかったと言ってくれて。思い切ってオファーしたいとポン監督に相談したら、激情型どうしで合うのではないかと、すぐに繋いでくれました。常に新しさを探求して、閃きを大切にするカメラマンだから刺激的だよと言って」

ポン・ジュノ監督のバックアップで、撮影監督にホン・ギョンピョを得た李監督の「流浪の月」は、映像的にも観る者の心を揺さぶるクオリティの高い作品に仕上がっている。例えば、随所に挿入される月や水や雲などの自然を映した映像は、登場人物たちの心理描写に深い奥行きを与えている。

特に、原作では動物園だった文が逮捕されるシーンは、映画では水遊びをする湖畔へと変更されており、その場所を映した不穏な雰囲気を醸し出す映像は、主人公である更紗の過去と現在が交錯する印象的な場面として展開されている。

また、2人が初めて出会う、公園のベンチに独りで座る小学生の更紗に大学生である文が黙って傘を差し出すシーンでも、雨や雲や光の映像が実に見事に配されて物語と絡み合い、運命的瞬間が見事に描かれている。撮影監督のホン・ギョンピョは次のように語る。

「この映画は、世間の枠からはみだしている特別な人々の物語です。断絶と抑圧、苦痛を経験した孤独な男女。そんな2人の特別で美しい愛の物語を、独特の新しいテンポにのせて映画に溶け込ませることに重点をおいて撮影しようと努めました」


『流浪の月』5月13日(金)全国ロードショー(C)2022「流浪の月」製作委員会 ギャガ

映画「流浪の月」を最初に観たとき、この作品から不思議な「湿度」を感じた。それはいわゆる日本的な陰湿なものではなく、それよりもこの奇跡的なラブストーリーに眩いばかりの「潤い」を与えるものだった。そして、それは小説「流浪の月」が、映画「流浪の月」に飛翔を遂げた瞬間でもあったのだ。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣 伸寿

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