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2022.05.16 20:00

<寄稿>「企業文化は戦略に勝る」──ネットフリックス、グーグルの組織開発の要諦

隙のない戦略を立てても、優秀な人材が揃っていても、なぜかグロースしていかない── そんな組織に必要なのが、「マッチした企業文化」である。(本記事はボルテックス100年企業戦略オンラインに掲載された記事の転載となります。)


組織開発で健全な企業文化を構築する

「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」。

度重なるシステム障害を起こしたみずほフィナンシャルグループの企業文化を金融庁がこう批判し、話題になりました。みずほフィナンシャルグループに限らず、優秀な人財が大勢揃っているはずなのに、失態を繰り返したり、業績不振に陥ったりする企業は少なくありません。要するに、賢い人を集めるだけでは持続する企業にはなれないことを示唆しています。欠けているのは何でしょうか?

「健全な企業文化」は、不祥事防止に役立つだけでなく、企業の成功に不可欠なピースのひとつです。ラグビーの監督として著名な中竹竜二氏も、「『勝て、勝て』と言ってもだめ。ウイニングカルチャーといって、勝つチームは組織の文化を持っている」と述べておられます。

多くの企業は「人材開発」には熱心に取り組みますが、「組織開発(Organizational Development)」にまで及んでいないケースが多々あります。しかし、先述の通り「賢い人を集めるだけでは持続する企業にはなれない」のですから、「人材開発」で一人ひとりの従業員の能力を向上させるだけでは不十分なのです。

「組織開発」は、健全な企業文化の構築を目指す取り組みです。上司と部下、部署と部署など人々の関わり合い方に注目し、「言うべきことを言い、言われていないことにも自発的に取り組む」のが当たり前の企業文化を育むことといってもよいでしょう。以前から、海外の企業は、組織開発の部署を設置したり、組織開発の専門家を雇ったりしていましたが、近年、日本企業にも同様の動きが見られるようになりました。筆者は、その組織開発の仕事に30年近く取り組んできました。

同じ研修をやって効果が出る企業と出ない企業

企業文化といえば、経営学者のピーター・ドラッカー氏の「Culture eats strategy for breakfast(文化は戦略に勝る)」という格言が世界的に有名ですが、なぜ文化は戦略に勝るのでしょうか。

戦略と文化の関係を木と土壌に例えて考えてみましょう。

木は戦略や施策を表し、土壌が企業文化を表します。土壌が凝り固まっていると、どんな木を植えようとしても、うまく根付きません。つまり、どれだけよい戦略や施策であったとしても、企業文化が病んでいれば刺さらないということです。

筆者の経験でも、たとえば、同じ研修プログラムを2つの企業に提供し、1つ目の会社では高い成果が得られたのに、2つ目の会社ではそうならなかったということがあります。うまくいく会社では、従業員の学習意欲が高く、失敗を恐れずに学んだことを実践しようとする文化があります。また、受講者同士で活発に意見交換をし、お互いから学ぶ土壌もあります。

他方、うまくいかない会社の受講者の方たちは、研修は上位者から受けろと言われたから受けているだけ。受講中に、疑問が湧いたりしても口にしない。そして受講後に職場に戻ると、今までどおりに業務を続けるといった様相です。「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」文化そのものです。



土壌が凝り固まっている、すなわち企業文化が不健全な組織は、何をやってもうまくいかないという事態に陥ります。問題が起きて、対処しようとしても現場に浸透しない。流行りの戦略を取り入れようとしても空回りする、といったことが続きます。

また、土壌は耕し続ける必要があります。企業文化も、一度築き上げたら終わりではなく、組織開発の諸手段を活用して、常に耕し続ける必要があるのです。

自社に必要な企業文化を見極める

凝り固まった土壌を耕したら、木がよく育つ土壌は何かを特定することが次のステップです。木の種類によって、求める土壌も変わってくるからです。たとえば、「自社のビジョン実現や戦略遂行には、リスク回避型とリスク奨励型とどちらがいいか?」等を見極めていくのです。様々なコンサルティング会社が企業文化を考察するためのフレームワークを提供しているので、それらを活用するのも手でしょう。

Netflixは、自社の企業文化構築に妥協なく取り組む究極の事例のひとつです。彼らの戦略は、時代の環境変化に迅速に対応し、創造的なアイデアの下、各国の顧客のテイストにあったコンテンツを次々と創り上げていくこと。その実現のためには、「制約のない自由なカルチャー」が鍵になると見定め、社内の規則の類いをことごとく排除しています。もっとも、従業員は野放しで何をやってもよいということではなく、能力主義と率直さの2つがカルチャーとして根付いてこそ、制約をなくすことができると彼らは考えています。

特に、率直さについてですが、これはお互いにフィードバックを与えることを意味しています。フィードバックは大事だと表明する企業は数知れずありますが、Netflixのフィードバック文化は類を見ません。誰しもが何か気づいたら、その相手が上長であっても社長であっても、すぐに本人にフィードバックするのが当たり前の文化を築き上げようとしています。

NetflixのCEOのリード・ヘイスティング氏が、求める企業文化を129ページにわたるパワーポイント・スライドに記し公開したことからも、その並々ならぬ思い入れが感じられます。

ただ、トップがいくら唱えても、それが絵に描いた餅になることは少なくありません。ヘイスティングCEOは、それを避けるために、異文化研究の専門家であるエリン・メイヤー氏を招き、Netflixの企業文化の実態を調査させるという徹底ぶりです。

心理的安全性の高い企業文化とは

Googleも企業文化構築に積極的な会社としてよく引き合いに出されています。Googleは、自社内で高い成果をあげているチームに共通して見られる特徴を明らかにするために社内調査を行い、データ検証しました。「優秀なプロフェッショナルの存在」が答えだろうという調査担当者らの予測に反し、共通項は「心理的安全性が確保されていること」でした。

Googleはこの調査結果を受けて、心理的安全性をGoogleの企業文化の柱の1つに据えることにしました。全てのチームにおいて心理的安全性が確保されていれば、全チームが高い成果をあげられるようになるはずと考えたのです。
ちなみに、組織行動学者のエイミー・エドモンドソン氏によると、心理的安全性は、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。

心理的安全性の高い企業文化を創るためには、率直質問機会、失敗共有機会、発言促進機会、反対意見機会の4つの機会を従業員に与えることが効果的です。それぞれの機会の意味することについては、以下の表をご参照ください。Netflixの企業文化の取り組みは、到底、他社に真似できないし、するべきでもないと言われていますが、心理的安全性の高い企業文化づくりのハードルはそれよりは低く、実際にそうした文化を構築しようとする組織が増えています。

心理的安全性の高い企業文化に必要な4つの機会



果たして、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」は自社に当てはまらないと言い切れるでしょうか?みずほフィナンシャルグループの一件を他人事とせずに、今一度、自社の企業文化を見直し、耕し続けるために必要な一手を考える機会としたいものです。


黒田 由貴子(くろだ ゆきこ)◎株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング(PFC)の創業者。1994年から2012年まで代表取締役を務めた。組織開発やリーダーシップ開発に関する企業内研修やコンサルティングを展開。経営層向けにエグゼクティブコーチングも数多く手がける。PFC創業前は米国系大手経営コンサルティング会社でシニア・コンサルタントを務め、ソニー(株)では海外マーケティング業務に従事した。在職中、フルブライト奨学生として米国ハーバードビジネススクール経営学修士号(MBA)を取得。 慶應義塾大学経済学部卒業。


本記事は「100年企業研究オンライン」に掲載された記事の転載となります。元記事はこちら


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