大阪の伝統的ビジネス街で2022年2月2日にオープンした「大阪中之島美術館」。大きな吹き抜けの空間が特徴の回廊「パッサージュ」には、スタイリッシュな木製のイスやベンチが置かれている。カンディハウスが家具デザイナーの藤森泰司と共同で製作したものだ。
「優れたデザインとアイデアを、プロダクトとして成り立たせる。カンディハウスと一緒につくれば、自らが思い描くきれいなかたちになる。ものづくりの面で、デザイナーさんから信頼を勝ち得たことは大きく、これが当社のコアコンピタンス」と、代表取締役社長の染谷哲義は言い切る。流政之、深澤直人、佐藤オオキといった有力芸術家やデザイナーがカンディハウスと組み、数々の秀作をかたちにしてきた。
2021年5月、同社はリブランディング(ブランド刷新)を実施した。「カンディハウスはこれからも、北海道の森と生きていきます」というメッセージを柱に打ち立て、北海道産のミズナラをイメージしたロゴマークを導入した。その主導的な役割を果たしたのが、同年3月に社長となった染谷だった。
本社がある旭川市は、100年以上続く「家具の街」として知られる。婚礼用の箪笥(たんす)を、地元のミズナラやタモなど広葉樹の木材でつくり、全国に供給してきた家具生産の一大拠点だった。
ミズナラやタモなど北海道産の広葉樹を積極的に使用
だが、北海道の広葉樹は良質な原木として欧米などに大量に輸出され、スギなどの針葉樹が植えられて山林の内容が変わった。以来、家具の街も使う木材は輸入に頼ってきた。
「化石燃料を使って木材を輸入し、つくった製品をまた化石燃料を使って輸出せざるを得ないという課題の解決に、いよいよ取り組まねばならない」。そう考えて、カンディハウスは6年前まで数パーセントしかなかった北海道産材の利用率を、現在では50%にまで高めてきた。針葉樹の比率が高くなった北海道の森には、まだ家具製造に向く樹齢が100年を超える広葉樹の大木が少ない。だが染谷は「小・中径木の木材を無駄なく使い切れるデザインを考え、技術でつくる。そんな家具を世界に広め、地元の環境と経済に貢献していくことがこれからの目標です」と力を込める。
木材の加工は機械を中心とした先端技術と手作業を融合させることで、高効率に品質の高い家具を生産
生産面でも改革を進めてきた。19年には、多品種・少量生産の効率を高めるためにセル生産方式を導入した。従来の製造ラインではひとつの製品を大量につくらないと効率が悪くなるが、得意とする上質でデザイン性の高い家具は大量生産に向かない。5人が1つの作業チームとなって複数の工程を担当することによって最短3週間で出荷できるよう、ものづくりを進化させている。
北海道の樹木を一本まるごと生かしきって、「長く使えるよりよい生活の道具をつくる」というサステナビリティ重視の考えを軸に、会社に脈々と受け継がれてきた「デザイン思考」、「手仕事と先端技術の融合」を一体化させて、染谷は次なるカンディハウスを打ち出そうとしている。