AIによる画像認識技術の研究に従事し、米国でスタートアップの実務も経験した東京工業大学の教授、鈴木賢治も、日本においてはその選択により、研究をベースにした事業化を進めようとしている。
1990年代に研究を始めた鈴木は、2002年に渡米。シカゴ大学では、独自の深層学習システムの構築に成功したほか、当時存在しなかった医用画像処理技術を開発し、商用化に携わるなど、実績を重ねてきた。
2018年に東工大に移籍してからは、少数の画像データでがんを検出する医療AIの研究に従事。病気の診断を行うAIは従来、1万〜10万の症例を学習させる必要があるが、鈴木はわずか100のデータを深層学習させるだけで診断が可能になる“スモールデータ”AIを開発した。
ビジネスセンスや実績がありながらも、今回、外部人材を招き、研究と経営をわける決断をしたのはなぜか。日米の違いや大学発スタートアップならではの課題を聞いた。
外部の人材をトップに置く理由
鈴木はシカゴ大学時代、X線像から骨の部分だけを取り除く画像処理技術を開発し、FDA(米食品医薬品局)の承認を得た。
「すると、その技術を事業にしたいという起業家が大学にやってきたんです。研究チームはそれを承諾し、彼らは世界中の病院に販売。我々はその利益の一部をもらい、研究費に回すことができていました。
また別の機会には、ライセンスを取得した技術を事業にさせて欲しい、さらに私をファウンダーにしたいという依頼もありました。しかし、シカゴ大学はその当時、研究者が起業やCXOをやることを良しとしなかった。そこでイリノイ工科大学に移り、CTOという肩書きで2社の経営に携わりました」
鈴木はその際に、投資家向けのピッチを行うなどもし、創業初期のCEOが担う業務としては十分な経験を積んだ。
それらをふまえて、今回の事業化においても、自らCEOに就くなど、経営にあたる意思もあった。しかし、有名コンサルティング企業出身の人材をトップに置き、自身はCTOに就くと決めた。その理由は、日米の環境の違いが大きいという。
「日本の大学の教授は、書類作成などの事務仕事も、人事の承認作業もすべて自分でやります。研究費の確保や契約も、教授が責任をもって見なければならない。やることが多いんです。
極端な例を出すと、ゴミ捨てや掃除も研究室で行います。アメリカでは、そこには時間は使いません。周りには起業した研究者も結構いましたが、皆さん研究と両立していました。それができるのは、研究と教育以外の仕事がほとんどないからです」
「ハウスキーピングを雇うなど、外注できる仕事はすべて任せる。そういう体制ができているわけです。だって、研究に長けた人にゴミ捨てをさせていては時間がもったいないでしょう(笑)」