ビジネス

2022.05.09 07:30

アジア市場でNetflixを抜いた香港発のストリーミング「Viu」の戦略

Chinnapong / Shutterstock.com

香港の通信大手PCCWが運営する動画ストリーミングサービス「Viu」がアジア地域を中心に存在感を高めている。設立6年のViuの有料会員数は、調査企業MPAによると2021年末時点で700万人に達し、東南アジア地域の有料会員数でネットフリックスを上回り、ディズニーに次ぐ2位に浮上した。

MPAが発表した2021年第4四半期の東南アジア地域(香港を含む)の動画ストリーミングのトップ3は、1位がディズニー(720万人)、2位がViu(700万人)、3位がネットフリックス(680万人)の順だった。さらに、4位と5位はタイのTrueIDとインドネシアのVidioで、有料会員数はそれぞれ290万人と230万人だった。

アジアのほか中東、南アフリカでサービスを行うViuは、約6000万人の月間アクティブユーザーを抱えている。これらの地域の市場は、ハリウッドの英語コンテンツを中心に始まったが、Viuはまず、韓国のコンテンツと少数の日本や中国の作品でアジア圏の視聴者を魅了した。

その後、同社にとって最大の市場であるタイやインドネシア、フィリピンやマレーシア向けのローカルコンテンツを開発した。

ViuのCEOを務めるジャニス・リー(Janice Lee)は、「アジアのためにアジアで作られた動画配信サービス」を標榜している。親会社のPCCWによると、Viuの収益は昨年37%増の1億4200万ドル(約182億円)に達し、PCCWのOTT事業の収益の75%を占めるまでに成長した。リーはPCCWのメディア事業部門のトップを兼任している。

しかし、リーはどんな犠牲を払ってでも事業を拡大すべきだとは考えてない。2019年末、パンデミックによるロックダウンが事業の成長を加速させる数カ月前に、Viuはインドから撤退した。ディズニー傘下のHotstarやネットフリックス、アマゾンらがしのぎを削るインド市場で、同社は収益化に向けた明確な道筋が見出せなかったのだ。

「どの市場でも成功できるような起業家は存在しない」と話す彼女のモットーは、失敗するのであれば早めに失敗して、素早く軌道修正を行い、次に進んでいくことだ。

香港で生まれ育った彼女は、シドニー大学で経済学の学士号を取得した後、スターTVやワーナーブラザーズを経て、2003年にPCCWに入社した。リーが率いるViuが収益を伸ばしたことで、PCCWのOTT事業の損失は、2020年の1950万ドルから昨年は290万ドルに縮小し、損益分岐点に近づいている。

調査企業MPAは、東南アジアと香港のストリーミング市場が年平均で12%のペースで拡大し、2027年の売上が38億ドル、有料会員数が9000万人に達すると予測している。一方、同期間の米国市場の有料会員数の年間成長率は6%で、4億人に伸びると予測されているが、成長率は東南アジアと香港市場が上回っている。

東南アジアの主要市場におけるTikTokやユーチューブを含むオンラインビデオの消費時間は、2021年第1四半期に257億時間と前年同期比で2倍以上になり、第4四半期には277億時間まで上昇した。

「この状況は、過去のインターネットバブルとは違う。消費者の行動の進化は今後も続くはずだ」とリーは語る。
次ページ > 米国の大手も苦戦するインド市場

翻訳・編集=上田裕資

ForbesBrandVoice

人気記事