植野:個人に応じて、きめ細かくやるのがピープルマネジメントの神髄だとわかりました。そこにAIは使えないのですか?
堀田:まだそのフェーズにないかもしれません。いまはデータだけで見えることには限りがあります。例えば、心理的安全性(※4)が低くなっている社員がどういう発言をするか、想像がつきますか?
(※4)心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ) ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念で、チームのほかのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態を指す。米グーグルが自社の生産性向上に心理的安全性が重要と発表したことから注目を浴びた。
植野:攻撃的な発言をするとか、反対に何も言わなくなるとか?
堀田:すごく形式的な敬語を使うようになるんですよ。「異存はございません」みたいな。AIがそういう傾向を指摘することはできますが、じゃあ、どうすればいいんだという話になる。
植野大輔
植野:AIはアラートを出せても、まだソリューションまでは導けない。
堀田:結局、人への感度の低いピープルマネジャーだと、部下が辞めそうかどうか、直前までわかりません。その人に任せていても、もともとのセンスがなければ改善も難しいです。実際にメンター制度が担っているのは、ダメなピープルマネジャーのために横串を刺せる仕組みなんです。
植野:ピープルマネジャーはOKR(※5)の設定だったり、そのための1on1(ワン・オン・ワン)ばかりに時間を割かれたり、下手をするとそれで本業ができなくなるような話も聞きますが、非効率的だと思いますか?
(※5)OKR(Objectives andKey Results) 目標設定・管理手法の一つ。「達成目標および主要な成果」の略語。ある目標に、複数の成果が付随するツリー形式を取る。企業の目標がチームの目標に、チームの目標が個人の目標に分解されていくのが特徴。
堀田:そう思いますね。本来、コミュニケーションって少ないほうがいいものです。だって、お互いに疲れなくて気もちいいじゃないですか。目指すべきは老夫婦の「あうんの呼吸」とか、間合いが読める関係です。
植野:そのためにやることは?
堀田:合議にしないこと。自分の話を聞いてもらいたい人には通したい主張がありますが、ほとんどは視点がズレていたり、視座が低かったりするから通らないんですよ。
例えば、自分たち営業が苦しいのはプロダクトが悪いせいだとナイーブに考えてしまう。その主張を傾聴しても、何かを解決することにならないんです。その人自体の視座を上げるとか、考え方が変わったという状態にもっていかなくてはいけません。
シナモンでは、ビジネスマインドをつけた人を「天才エンジニア」と定義しました。ビジネスなんか考えたことなかった人たちが、興味をもって理解すると、自分の研究が独りよがりだったな、と気づけます。そのときに全体が見えた感覚になり、他者が言ってることへの理解が深まって、初めて心理的安全性が下がる。そうなると文句を口にしなくなるので、お互いのコミュニケーションコストも減るんですね。