ビジネス

2022.05.09

広島の限界集落にあるコミュニティに学ぶ、地域経済の作り方

瀬戸内海に浮かぶ大崎下島の小さな集落にあるコミュニティ「まめな」

人口約400人、瀬戸内海に浮かぶ大崎下島の小さな集落に、都心部からひっきりなしに人が訪れるコミュニティがあると聞いたのは、この春のはじめ。それが「まめな」だった。

「くらしを、自分たちの手に取り戻す」をミッションに、介護、農業、教育、テクノロジーの4事業を展開する一般社団法人まめなは、広島県呉市の久比(くび)で独自の経済圏を構築している。

近年、SDGsを筆頭に、グローバルスケールで物事を見ることが増えた。広く遠い世界が近くなった一方で、それぞれの足元(ローカル)が見落とされていた。コロナ禍で国交が分断されるなかで、それが浮き彫りになった。

だから今こそ、狭く小さなスケールで物事を見つめ直す必要があるのではないか……。そんな思いを抱きつつ、ナオライ代表であり、まめな代表理事の三宅紘一郎氏を訪ねた。


(左から)更科安春氏、三宅 紘一郎氏、梶岡秀氏 撮影:福崎 陸央

活性化しないことで得られるもの


呉市出身で、親族に酒蔵関係者が多い環境で育った三宅氏は、孫泰蔵氏とNPO法人ETIC.による起業家育成プロジェクト「SUSANOO(スサノヲ)」の一期生として、これからのスタートアップや事業のあり方を学んだ。

その経験を経て、ただ酒を売るだけでなく、地域にインパクトをもたらすような事業ができないかと考え、2015年に久比の対岸にある離島・三角島でナオライを創業。2019年には、日本酒を低温浄溜してつくる和酒「浄酎(じょうちゅう)」を開発した。

「浄酎を探求する中で、開発に時間をかければかけるほど商売になりにくい社会構造が見えてきて、だんだんとその構造自体を変えたいと思うようになりました」

そこから、奇跡的な出会いが繋がっていく。その一人が、梶岡秀氏だった。

「梶岡さんやナオライのメンバーと久比の深刻な空き家問題や高齢化問題について話しているうちに、空き家を宿に活用して町のコミュニティを再生するイタリアのAlbergo Diffuso(アルベルゴ・ディフーゾ)のようにできないかというアイデアが出ました」

そこで、“介護のない世界”の実現を目指していた更科安春氏との出会いがあり、2019年3月に3人で「まめな」をスタートさせた。


譲り受けた「梶原医院」を自由に集まれる食堂に改装。介護士や看護師がウエイターとして働き、高齢者の見守りも担っている。

久比でいくつかの空き家を改修し、それぞれにテーマを設けて、現在3施設を運営するまめな。この春に初回の改修工事を終え、いよいよ軌道に乗るところにきた。

しかし、三宅氏と話していても、創業期特有の勢力や焦燥感などはなく、ゆったりと落ち着いた空気が流れている。それは、無理に“活性化”を目指そうとしていないところからくるのだろう。

「ただ地域の資源を利用し、それを売って儲ける、というモデルは持続可能ではありません。地域に収益を還元する循環を作っていくことで、ビジネスを永く続けていくことができます」と、三宅氏。

実際、ナオライでも、1500社にものぼる酒蔵の多様性を守ることを目標に、農薬を使わず育てた各地の原料を、規格外であったとしても加工できるように循環モデルを構築している。その収益は、まめなや地域に還元していく計画だ。

「ナオライでは、地域の酒蔵をハブにしたこのビジネスモデルを日本各地に広げていくつもりです。地域の酒蔵と組むことで、一瞬にしてその地域の歴史と文化に繋がれ、一気に入り込めるんです。久比モデルの再現性も常に意識していて、現在全国8拠点に増やす構想があります」
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文=佐藤祥子

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