みなさん、「古着」着ていますか? ここでいう古着とは、リサイクルショップ等で売られている中古衣料ではなく、いわゆる「ビンテージ古着」。その定義は諸説ありますが、ここではざっくり、「生まれてから数十年経過している服」とします。さて、いきなり妙な話を始めてしまいましたが、安心してください。今日のテーマは、決して古着漫談ではなく、「付加価値のつくり方」の話。
考えてみてください。ビンテージ古着なんて、語弊を恐れずに言えばただのボロ布です。何度も何度も使いこまれたボロ布。にもかかわらず、とんでもない高額で取引されるものもある。一見同じ服でも、値段が倍以上違うなんてこともある。どうしてこんなことが起こるのでしょう? 実はその裏には、ボロ布を売り物に変える、先人たちの知恵が隠されていたのです……。
ビンテージ古着はネーミングの宝庫
古着を買いはじめて10年ほどたったころ。僕はコピーライターになりました。少し言葉に敏感になっていたからでしょうか。いつものように古着屋をまわっていると、あることに違和感をもちます。それは、「服のディテールに、細かすぎるぐらいに名前が付けられていること」。その細かさはちょっと異常です。
例えば、古着の王道・リーバイスのデニムを見てみましょう。まず、デニム生地の年式を表すネーミングとして「XX(ダブルエックス。Extra Exceedの略。1965年頃まで生産)」、「BigE(ビッグイー。赤タグのLEVI’S表記が大文字のE。1960年代後半〜1970年代の生産)」、「66前期/後期(1973年頃〜1980年頃までの生産)」など。さらに生地の色落ちを表す「タテ落ち(デニム生地に縦筋が入ったような色落ち)」、「ヒゲ(前身頃の足の付け根部分にできる、ヒゲ状の色落ち)」、「ハチノス(膝裏にできる蜂の巣状の色落ち)」。ほかにも、よりピンポイントなディテールを表す「隠しリベット」「Vステッチ」「足長R」「革パッチ」……といった具合に、とにかくあらゆるディテールに名前が付けられています。
そして、しばしば「XXでこのキレイなタテ落ち! 鬼ヒゲも入って革パッチ付き!」のようなセールストークに出合います。知らない人にはただの呪文にしか聞こえないでしょうが、これ、まさに付加価値が生み出されている瞬間なのです。
わかりやすく説明しましょう。(1)まず特徴的なディテールを見いだす。(2)そして、名前を付け顕在化させる。(3)それらをかけ合わせることで、レア度を上乗せしていく。ビンテージ古着の現場で行われているのはこの3STEP。これを僕は、ディテールの組み合わせで付加価値を増す「ディテールかけ算法」とこっそり名付けました。