公共トイレに世界が注目。渋谷区「THE TOKYO TOILET」の今

左上から時計回りで、代々木深町小公園トイレ(坂茂)、東三丁目公衆トイレ(田村奈穂)、七号通り公園トイレ(佐藤カズー/ Disruption Lab Team)、神宮通公園トイレ(安藤忠雄)

トイレに近づくと自動で蓋が開き、座ると便座は温かく、使用後は水が流れる。日本にいると当たり前のようだが、このようなハイテクなトイレが普通に広まっているのは、世界をながめてみてもこの国だけだろう。

このハイテクなトイレを海外にも展開する日本のメーカー「TOTO」や「LIXIL」は、業界では世界で5本の指に入るほどの躍進を続けている。「ウォシュレット」や「音姫」などは日本が生み出した機能であり、技術的にも世界から高い評価を受けている。

ハリウッドスターなど海外のセレブたちからも愛され、かつて来日したマドンナが記者会見で「日本の温かいトイレが恋しかった」と語ったエピソードも残っている。

おもてなしの文化の発信のために


高く評価される日本のトイレだが、皆さんは観光地や公園にある公共トイレに、どんなイメージを持っているだろうか。私は、正直そこまですすんで利用したいという気持ちがなく、公共トイレには入らず、少し離れていてもコンビニや商業施設のトイレを利用することが多い。汚れが気になったり、夜だと薄暗くて怖いなと思ったりしたことがあるからだ。

昨年、日本財団が全国の17歳から19歳の男女を対象に実施した公共トイレに対する意識調査によると、「デパートや映画館など商業施設内のトイレ」の利用率は57.1%と最も高かったのに対し、「公園内や歩道にあるトイレ」は13.5%と低い数字になっている。

「公園内や歩道にあるトイレ」は、他の設置場所に比べ、「汚い(67.6%)」「臭い(28.6%)」「暗い(23.4%)」「危険(22.8%)」といったネガティブなイメージが強く、「綺麗」や「安全」といったポジティブなイメージを想起する人はわずか約3%に留まる。

とりわけ、女性の場合は「危険(27.2%)」というイメージを持つ人が多く(男性では18.4%)、どうやら私と同様に、安全面や衛生面で公共トイレに対して不安を感じている人は多いようだ。

そんななか、東京都の渋谷区で、誰もが快適に使用できる公共トイレにしようというプロジェクト「THE TOKYO TOILET」が、2020年8月より実際に施設の供用をスタートさせて、注目を浴びている。

公共トイレのデザインを、安藤忠雄氏や隈研吾氏、坂茂氏、佐藤可士和氏など著名な建築家やデザイナー16人がデザインを担当。渋谷区内の17箇所に設置する計画で、既に12箇所のトイレが供用開始されている。


恵比寿公園トイレ、片山正通設計

このプロジェクトは、日本財団による社会課題解決に向けたソーシャルアクションの1つが発端だ。東京オリンピックや増加する外国人の訪日をきっかけに、公共トイレを通じて日本のおもてなしの文化を発信しようと動き出した。

日本財団から、文化の発信地でもある渋谷区に「THE TOKYO TOILET」の構想を持ちかけたところ、区の快諾を得て、公共トイレの新しいモデルケースを構築するべく、企画自体は2018年から進められていた。
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文=内田有映 写真提供・取材協力=日本財団 撮影=永禮賢

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