注ぎ足してきた、AIとディープラーニング
古田氏は「現在はAIが判別するので『どのポイント』と特定することができません。顔全体と顔の詳細、それぞれを捉えるディープラーニングの融合により高精度化がなされています。まさに無数のポイントを自動的に照合し認証するので『何箇所』をターゲットにしているかは参考にならないのです」と説明する。
「企業秘密も含まれている」としながらも、技術的な解説をする際、数値化できないとなると説得力を失ってしまう。
では、2017年10月から羽田空港で先行導入された、同社の顔認証による出帰国手続きについてはどうか。パスポートを提出し、人の目による写真との照合により、ゲートを通過していた時代から、認証システムが顔とパスポート写真を自動照合し手続きのスピードを早めることができるようになったのだ。
「例えば5分間に◯人通過が可能になりスピードアップにつながったか」
そうたずねてみたが、こちらもセキュリティの観点から数字を開示できないとのこと。「5分、10分かかっていた行列が導入後になくなったのは事実ですが」と古田氏は笑う。
私の困った顔から察したのだろうか、こう切り出した。
「AIとディープラーニングによる顔認証は、うなぎ屋さんの『秘伝のタレ』のようなものなんです。弊社ではほぼ30年前から顔認証について注ぎ足し注ぎ足し培って来た技術が積み重なり、現在の精度を生み出しているのです」とうまい例えで解説してくれた。
30年間データを積み上げ、業界最先端を走ってきたパナソニック。しかし古田氏は、後発企業が追いつけないとは言い切れないと吐露する。
「日本においては許諾を得られた方々の顔データをサンプルに構築して来ました」
つまり日本国民全員のデータを収集し学習させているわけではない。よって「(全体主義国家のように)何十億人もの顔データを強制的に収集できるような国が本気で乗り出せば、そのデータ量に太刀打ちできない可能性もあります」とのこと。
AI+ディープラーニングは、そのデータの総量に依存するテクノロジーである点がよく理解できる。
富士急ではビジネスモデルを転換
顔認証により、社会変革が生じている点も明らかになってきた。パナソニックは2018年8月より富士急ハイランドに顔認証入場システムを導入。39すべてのアトラクションで、活用されている。
ここで興味深いのは、富士急ハイランドが顔認証の導入とともに、入場料を撤廃したことだ。それまでは、入場料を徴収していたが、無料で入園してもらいアトラクションごとに課金するモデルに転換した。これにより入場料を支払い、覚悟して1日中滞在し遊ぶ……という利用客に加え、ふらっと立ち寄ってアトラクションを楽しむライトユーザーが増加したという。