米医療保険大手カイザーパーマネンテが住宅開発に注力する理由

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米国有数の保健維持組織(HMO)カイザー・パーマネンテは、統合医療ネットワークや先進的な医療サービス、最先端医療技術への献身的関与に加えて、地域社会に継続して投資していることでも有名だ。

同組織は2018年、アフォーダブル住宅(手ごろな価格の住宅)を提供・維持することを目的にした基金「Thriving Communities Fund」を、2億ドルを投じて立ち上げた。そして2022年4月には、この使命にさらに尽力するべく資金を4億ドルに倍増した。

カイザー・パーマネンテのシニアバイスプレジデントで最高健康責任者(CHO)のベシャラ・シューケア(Bechara Choucair)は、プレスリリースのなかでこう説明している。「カイザー・パーマネンテが、医療部門と投資部門の力を結集させれば、地域社会の強化と健康の増進、社会の発展促進が可能になる」

プレスリリースはこう続く。「カイザー・パーマネンテは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおいて、健康と経済的健全性への打撃が最も大きかった低所得層や有色人種など少数派コミュニティの問題に取り組んでおり、今回の動きもその一環だ。(中略)医療システムは、投資家に働きかけ、彼らのリソースを活用してアップストリームにリーチし、経済的な力を発揮することで、地域保健(community health)を増進するのに最適だ。投資の流れを、アフォーダブル住宅や地元ビジネスといった、インパクトの大きい資産へと向けることで、地域保健が強力で長期的な増進を得られる可能性がある」

カイザー・パーマネンテによる今回の動きは、医療機関と専門家が「健康の社会的決定要因(SDoH)」を重視する傾向が強まるなかで行われた。SDoHとは大まかに言うと、「人々の健康や生活の質にさまざまなリスクと影響を及ぼす、生活、学習、労働、余暇の場を取り囲む環境」を意味する。

筆者はこれまで、SDoHと、それらの要素に取り組む組織が行う投資について、この場に寄稿してきた。ヘルスケアシステムがこうした新たな取り組みに力を入れている理由はシンプルだ。SDoHを改善すれば、コミュニティの全般的な保健衛生をじかに向上させられることが、研究で繰り返し示されているのだ。

米国家庭医療学会(AAFP)が展開する、健康増進を目指した画期的な戦略「EveryONE Project」では、以下のように述べられている。

「医療とは直接関係のない社会的ニーズ、つまりSDoHは、個々人の健康転帰を大きく左右する。医学界が、患者と社会の健康に重大なインパクトを与え続けるためには、病院の外にいる患者のニーズに対処しなくてはならない。事業を効率的に実施して、そうした社会的要因を見きわめ支援できるか否かは、患者集団の固有のニーズや、そうしたニーズを突き止める医療機関の判断力、社会的リソースの有無にかかっている」
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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