スポーツとラグジュアリー その組み合わせは新しいのか古いのか?


21世紀の新しいところでいえばヨガやジム通いなどのウェルネス志向のスポーツ、それと結びついたアスレジャー(アスレチック+レジャー)のカルチャーも社会変革をもたらしたと見ることができます。

アメリカでは2013年頃から話題に上り、2015年、16年に一気に世界に広がったアスレジャーのブームは、表舞台と裏舞台の境界をなくしました。ジムへの往復だけでなく、職場や学校、ともすると社交の場でもヨガパンツやタイツ、レギンス、スニーカーで過ごすスタイルを普及・定着させました。前時代であれば、特定のトレーニング場所のみで許された、舞台裏のスタイルです。それがそのまま日常の社交着になったのです。

アスレジャーは、SNSの普及と手を携えて、舞台裏に伏せられておくべきとされていたものを続々と表に出してきました。


(c)Getty Images

ナチュラル、ウェルネス、マインドフルネス、オーガニックという言葉とともに、決してキレイとはいえないボディラインの露出も、自然なあなた自身にこそ価値があるとして称賛されるようになりました。修正加工を施した写真が簡単に作れる時代だからこそ「ボディポジティブ」の動きが活発になりました。

リアリティをさらすトレンドは、つらい過去や精神的トラウマの告白も促しました。過去にだまって飲み込んでいたことも表に吐き出されるようになりました。過去のセクハラを告発する#MeToo運動により、多くの有名人が加害者として仕事を追われたのは記憶に新しいところです。

さらに、前時代には口にされるのもはばかられていた問題が、タブーなしに表舞台に出てくるようになっています。女性の身体の問題が赤裸々に公言されることが増え、この課題をテクノロジーで解決するためのビジネス、フェムテックも盛り上がりを見せています。

“旧型”から抜け出せるか?


すべて始まりは、ウェルネス志向のスポーツとそれと一体となったアスレジャーです。これは隠されていた舞台裏を表舞台に出すことを促し、女性が抱えてきた問題からタブーをなくし、女性が生きやすい世界を広げたという意味で社会変革をもたらしています。

2022年の北京五輪はさながら「旧型」ハイブランドのファッションオリンピックの様相を呈していました。スノーボード女子スロープスタイルで銀メダルを獲得したジュリア・マリーノ選手のボードに描かれた「PRADA」の文字が宙を舞う。繰り返し引用されたあの瞬間は、この大会の一面を象徴するシーンとして記憶に残るでしょう。

また、スポーツチームそのものもが、いわば「ラグジュアリーブランド」化している例もあります。

たとえばフランスの名門、パリ・サンジェルマンFCは、ディオールとのコラボを成功させたり、パリ・ファッションウィークに参加したり、ナイキのエアジョーダンとのコラボで話題をふりまいたり、ニューヨークの五番街に出店したり。こうした側面は、ヒップホップ風味がスパイスとなったパリらしさを売るファッションブランドそのものです。

このような例は、いまのところは、旧型ラグジュアリー化していくスポーツの例として見る方が妥当です。しかし今後、社会課題解決が求められるところでなんらかの働きをもたらし、社会をより包摂的な方向に変えていくことを期待したいところです。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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