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2022.04.20

誰もがアトツギになれる?新しい第三の事業継承「サーチファンド活動」の実際

事業承継の新たな手法として注目されている「サーチファンド」は日本に根付くのか。先駆けとしてサーチファンド活動を行った実績をもつ伊藤公健が、実体験をもとに解説する。


中小企業の後継者不足が深刻化し社会課題化するに伴い、親族や社員ではない第三者による事業承継を選ぶ経営者が増えている。2021年度の事業承継を目的としたM&Aの実施件数は過去最高の598件を記録(レコフデータ調べ)。中小企業のM&Aに特化した専門業者や仲介業者も大小300社ほどに拡大中だ。

そんななか、米スタンフォード大学ビジネススクールが開発した事業承継の手法「サーチファンド」が日本で注目され始めている。この仕組みと国内における現状とは。

サーチファンドとは、資金力も経営の経験も限られる個人が、中小企業の経営者として事業を承継する投資活動のひとつで、日本でもようやく注目されてきました。

日本で中小企業のM&Aとしてすでに普及しているPEファンドとの違いは、主に投資対象の規模や経営者となる人材の条件です。サーチファンドは、サーチャーと呼ばれる経営者候補が投資家からサーチフィーをもらい、その名の通り企業をサーチ(探す)ところから始まります。魅力ある中小企業(売り上げ数億〜数十億円規模)を発掘した後に数億円規模のM&A資金を投資家から調達し、サーチャーは経営者として事業を承継、事業を成長させます。最終的には、上場や株式の買取りなどで投資家に投資資金を還元するしくみです。

一方、PEファンドの場合は、経験豊富なチームがまずファンドを組成し、複数の中規模の未公開企業へ投資するものです。投資先の経営に未経験者が就くことはほぼありません。この点は特に大きな違いで、サーチファンドは、まず個人が主役の投資活動ということになります。

事業承継の一般的な選択肢になる可能性


中小企業のオーナーは自分の代で事業をたたむことになるなら、何とか手を打ちたいと望まれています。しかし企業買収の現場では譲渡後の経営方針のずれへの不安、担当者の顔が見えないといった抵抗感もあります。サーチファンドの場合、中小企業はサーチャーと交渉を重ねることで直接経営者候補を選ぶことになり、サーチャーにとっても、自分の価値観やスキルに合う企業を探せるメリットがあります。

もちろん、経営を引き継ぐわけですから、リスクもあります。企業経営は計画通りにいかないことのほうが多いので、自ら汗水流して動かないといけない。会社の社風や従業員との対話に慣れる必要もある。1年かけても企業をサーチ(発掘)できないリスクや、投資を回収できない経営的なリスクもあります。また、イグジットまでの成功事例は限定的なので、仮に5年後にイグジットする際、このまま経営者として企業に残るのか、第3者に売却するのか、明確なビジョンを持つ必要があります。

経営するということは、責任の重いことです。従業員や地域の役割、積み上げてきた信頼をそのまま引き継ぐ意味合いは、数字や表層のみでは測れません。自分事化できるマインドセット「オーナーシップ」をもって、多大な責任の伴う「投資」であることを理解して活動できる人材が承継を担える。そういう人材が増えれば、中小企業の未来が開かれていくと思います。

10年後にはサーチファンドによって、経営者になるという形は一般的になると考えています。

サーチャーにとっては0から1をつくるだけじゃない、アントレプレナーシップの道であり、中小企業にとっては、顔が見え、信頼を醸成できた上で任せられる経営者候補を得られることになるのです


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伊藤公健
◎1979年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。マッキンゼー、ベインキャピタルを経て、サーチファンド活動を開始し自ら中小企業の経営者に。イグジット後、サーチファンド・ジャパン設立に加わり代表に就任。

文=中沢弘子

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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