2022年1月下旬に開かれた、次世代教習所共創コンソーシアム(NDCC)設立記念オンラインセミナー。170人を超える参加者の中にひとり、異色の人物がいた。緑の全身タイツにカメの顔が付いたヘルメットをかぶり、メロンパンのような甲羅を背負っている。「かめライダー」に扮したこの男こそ、ミナミホールディングス(ミナミ)の社長であり、NDCC設立をけん引した江上喜朗である。
かめライダーの「中の人」、江上喜朗社長
ミナミが運営する南福岡自動車学校は1956年に創業した自動車教習所だ。3代目社長に就任した11年以降、江上は学科教習用CGアニメ『DON!DON!ドライブ』の開発や外販をはじめ、エンタメとテクノロジーを駆使して自動車教習の新たな価値創造に挑戦してきた。
その取り組みは自社や福岡だけにとどまらない。17年には全国の教習所の経営改革を支援する子会社を設立。グローバル進出にも積極的で、18年にはカンボジアで初の外資系自動車学校を開校した。ウガンダではJICA(国際協力機構)とともに交通事故の防止や交通渋滞の緩和に向けた事業を手がける。
そんな自動車教習業界の風雲児にとって、NDCCは肝いり施策のひとつだ。
「近い将来、自動運転によって従来の自動車教習はなくなる。業界が生き残るためには、教習所の広大な敷地や地場の信頼、毎年新たに生まれる若い人たちとのつながりといったリソースを生かして新規事業を生み出すしかない」
江上はこう断言する。それにしても、この男はなぜスーツではなく全身タイツを着て仕事をするのか。そこには、旧態依然とした自動車教習所を「変身」させるという覚悟があった。
自社も業界も「変身」させる
「チャチだな……マジでこれ着るの?」
13年6月。かめライダーのコスチュームを手にした江上は思わず心のなかでそう呟いた。
リクルートのグループ企業で新規事業企画を担当したのち、ベンチャー企業を経て30歳で家業を継いだ。少子高齢化のあおりを受けて、ミナミの売上高は1990年代をピークに減少を続けていた。
危機感を覚えた江上は、身ひとつで会社を変えると決意した。学科や技能教習を面白くして、自動車教習所を楽しく学べる場所にする。その意思表示として選んだのが、自ら交通安全のヒーローに扮して会社の広告塔になるという道だった。