──原油価格の上昇はインフレにどのような影響を与え、それがグローバル経済にどのような影響を与えるのでしょうか。
石油は世界のGDPの3%を占めています。ですから、世界GDPの3%が一日で倍の価格になるようなことがあれば、確実にインフレに影響を与えます。しかし私は、インフレを推進する主要因は石油ではなく、実際に引き起こしているのは金融緩和政策であると考えています。
その意味で、原油価格はインフレの最大の要因ではないですが、重要な要因ではあります。それは、石油は基本的にあらゆるものに含まれているため、全体量に関係なく、あらゆるものの価格に影響を及ぼすからです。原油価格の上昇は、ガソリン価格上昇以外にも、私たちが利用するほとんどすべての財とサービスに反映されることになります。石油は原料であり、エネルギー源であり、そして多くの物品の輸送に使用されているのですから。
──多くの人は、車を給油する時に支払う金額といった観点からインフレを考えがちですが、原油価格について一般的に理解されにくい点、つまりガソリン給油のその先にある真のコストとはどのようなものなのでしょうか。
エネルギー源としての石油について言えば、住んでいる場所にもよりますが、消費者がガソリンスタンドで支払う金額の50~60%が税金です。私たちは原油価格の変動に注目しがちで、これも重要ではありますが、ガソリン価格1リットル当たり1.50ユーロに対して、70~80セントが税金として政府に支払われているということは、重大な事実であるにも関わらずあまり知られていません。
EUなどの石油輸入国は原油に課税することで、産油国が石油輸出で得るよりも多くの収入を得ているのです。
──原油価格の変動は、石油輸入国と石油輸出国の双方にどのような影響を与えるのでしょうか。
原油価格の高騰は、輸入国にとっては問題となり、同時に輸出国にとっては有利に働くので、まさにゼロサムゲームです。価格が変動すれば、得をするのは産油国になったり、消費国になったりします。
──環境に優しい代替エネルギーを求める声の高まりにより、原油価格が高騰すると、再生可能エネルギー市場が生まれるのでしょうか。
原油価格の高騰は、電気自動車(EV)や水素といった潜在的な代替モビリティ手段の経済性を向上させますが、再生可能エネルギーに直接的な影響を与えるとは限りません。再生可能エネルギーは、直接的に石油を代替するものではないからです。当然ながら、EVを購入する人は再生可能エネルギーを利用したいから購入したと考えられ、購入が再生可能エネルギーの需要を促進するという面はあります。しかし、現実の世界はそれほど単純ではありません。
他方で、2014年以降の市場で見られたような低水準の原油価格は、EVをはじめとするサステナブルなモビリティの競争力にマイナスの影響を与えたと考えられます。そのためか、EVなどのソリューションが想定されたほど早く拡大しませんでした。また単純に、原油は何年も前から低価格だったのです。