先日、レディー・ガガの主演で話題になった映画『ハウス・オブ・グッチ』を映画館で観た。誰もが知っているグッチという世界的ブランドの創業一族のお家騒動を描いた映画ではあったが、一般社団法人「ベンチャー型事業承継」の理事も務めている私としては、アトツギ(後継者)を取り巻く物語として、イタリアの出来事と日本での出来事とを重ねて観ていた。
世のアトツギの多くが、先代社長(多くは親)と衝突する。戦略に始まり、価値観、営業、制度、新規事業、株式などなど、アトツギ会社の数だけそのストーリーはある。それは古今東西、繰り返されているのかもしれない。
同じころ、すでに家業に入っているアトツギたちと語り合う機会があった。その席で話題になったのが、父親が代表や会長として社内にとどまっている場合の、父親の感情との向き合い方についてだった。
ある会社では、父親はピカピカの会社を継がせているとの認識なのだが、会社の財務状況は相当悪い。息子は何とか解決したいと思っているが、なかなか同じ方向を向いてくれないという。父親のプライドが現状認識の邪魔をしているケースだ。また別の会社では、後継者が立ち上げた新しい事業に大きな注目が集まったせいで、愚直に技術に向き合ってきた父親から思わぬ嫉妬を買い、新規事業の邪魔立てをされてしまったという。事業承継の現場では、普通では考えられないようなイザコザが起きているのだ。
父親側にしてみれば、経験に基づいた感覚というものもあろう。だが、そこによくも悪くもプライドが介在する。「よくも」という表現をしたのは、このプライドがあるからこそ、ここまで事業を続けてこられたことも事実であり、一概に悪いとは言えない節があるからだ。そんななか、ひとりのアトツギの話に座の関心が集まった。彼も最初は父親と意見が合わず、とにかく仲が悪かったが、財務改善や新規事業を契機に絆を強めていったという。コツはシンプルだった─敵の敵は味方の構図づくりだ。