ビジネス

2022.04.15 18:00

アトツギの分断を絆に変える 「敵の敵は味方」の構図づくり


共通の敵に立ち向かう絆


とかくアトツギは、家業に入るなり自分の力で成果を出し、既存社員にも認めてもらいたいと肩に力が入りがちだ。逆に先代は、前述のようなプライドが心のどこかにあらわれ、頑なになってしまう。こうした感情が、知らずしらずに両者の分断を招く。

しかし、この分断を絆という形でつないだのが、共通の敵づくりだったという。この会社には「祖父の代から続く借金」という共通の敵が存在しており、そこに2人の焦点を合わせることで一致団結し、見事、返済完了に漕ぎ着けた。その後も、新商品開発や新事業など超えなければならない山を共通の敵とすることで、親子一枚岩で取り組むことができるようになったという。

そもそも新しい感性をもつアトツギと、昭和から駆け抜けてきた先代の感性がぶつからないわけがない。それが家族であればなおのこと、通常の仕事付き合いの距離感とは違うものになり、衝突が起きやすいのだろう。親子ゆえに一筋縄でいかない部分はたくさんある。だからこそ、成果を独り占めせず、同じ方向を向くことが必要なのだ。

企業の新陳代謝が叫ばれる日本だが、当然ながら、承継されていくべき優れた企業も何百万社と存在する。親子という立場と、仕事での先輩後輩という立場を切り分けていく難しさ。事業承継においていろいろなスキームが確立されつつあるが、親の「心の奥底の感情をコントロールする力」は、アトツギにとって、事業運営と同じくらい大切なスキルになるといえそうだ。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

text by Ryotaro Nakayama | illustration by Ryota Okamura

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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