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2022.04.18

日本の大企業とスタートアップが協業で成功するには

INNOVATION ARCHITECT


その話し合いを通じて、パランティアの最初の顧客になったのがローソンです。当時、新浪剛史社長(現サントリー・ホールディングスCEO)が率いていた同社は、イノベーティブな顧客でした。そしてパランティアにとって、ローソンは初の小売り・物流領域の顧客となったのです。

それまでパランティアの顧客は米政府やCIA(米中央情報局)、ICPO(国際刑事警察機構)といった官公庁が中心だったこともあり、ローソンという初の大手民間企業の顧客を得たことにパランティアも喜んでいました。その後、パランティアを日本の通信会社やIT企業に紹介しましたが、パランティアの事業内容を理解できない企業もありました。それでもパランティアはローソンをはじめ、官公庁や金融機関を中心に、日本でも着実に顧客を増やしています。

牧:そこに日本の大企業が、シリコンバレー発のスタートアップと組むヒントがありそうですね。従来は日系のIT企業が取引相手でしたが、シリコンバレーの企業と直にやりとりすればいいことに気づいた、と。米スタートアップにしても、市場と顧客を抱えている日本企業と提携したいと考えるようになっているのではないでしょうか。

中村:それは非常には重要な点ですね。一つ面白い例があります。ある日本企業がビッグデータ解析のプロジェクトを発注したところ、受注先の候補だった大手コンサルティング企業が「すべてのデータを解析するのに2年かかる。そこで、まずは全体の5%をサンプルデータとして解析し、重要な点だけ四半期ごとに報告するのではどうか」と、提案してきたそうです。

それに対して、パランティアは「作業を2週間以内に始め、リアルタイムですべてのデータを解析して報告する」と提案したのです。提示額も競合のコンサルティング企業と同じコストで、しかも、いつキャンセルしてもよいという条件です。結局、その日本企業はパランティアに発注することに決めました。

牧:LPを出資先スタートアップにつなぐことで、Sozo Venturesは新たなバリュー・プロポジションを提示し、ベンチャー投資モデルを再発明したように思えます。これは、ビッグデータやAI(人工知能)が一般に浸透するようになった頃と同じタイミングだったのですが、Sozo Venturesのビジネスモデルにとってもよいタイミングだったのでしょうか? 例えば、20年前に同じことをしようとしても難しかったように思えますが。

中村:20年前は微妙だったと思います。当時は技術の翻訳はもちろん、製品やサービスのローカリゼーションが不可欠でしたが、今はほぼ不要です。大切なのは顧客との直接のやりとりで、仲介業者の重要性はますます下がっています。

20年前と比べて異なるもう一つの特徴は、起業家と投資家・大企業間の「パワー」の推移です。情報がコモディティ化したことにより、起業家はどのベンチャー・キャピタルや大企業と組むとよくてどこがダメか、簡単にわかるようになったのです。パランティアにはセールス部門はありませんでした。それなのに、顧客の方から問い合わせが来るようになったのです。昔の企業は手当たり次第にセールスをしていたと思いますが、今は違います。

もう一点、日本で誤解されがちなのが、ベンチャー・キャピタリストの役割がスタートアップを選定して出資するだけと思われている点です。私もよく、「1週間で何社からプレゼンテーションを受けて、そのうち何社に出資したか?」と聞かれます。でも、答えは「ゼロ」ですよ。そうではなく、私たちのほうが優秀な起業家やスタートアップを探して、追いかけているからです。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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