あの日の小学生がW杯出場の立役者に。三苫 薫の「未来思考」

稀代のドリブラーに成長した三苫が、W杯出場を決定づけた/Getty images Hector Vivas - FIFA


日本代表に初めて招集された昨年11月。敵地でのオマーン代表戦の後半開始からデビューを果たすと、同36分に得意のドリブルで左サイドを突破。MF伊東純也(ヘンク)の先制ゴールをアシストし、ホームで敗れた借りを返す勝利を導いた。
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実はこの時点で、三笘は自身の将来への先行投資を始めている。スポーツ特化型人材育成プラットフォームAscedersとパートナー契約を結び、日々の食事提供や栄養面の指導、コンディショニング面のサポートを託した。

すべてのアスリートにとって、睡眠と並んで食は生命線を握る。三笘自身、川崎時代には試合の前後にサプリメントの摂取を欠かさなかった。文化や風習も異なる海外でのプレーを始めたなかで心強い契約を得た三笘は、こんな言葉を残している。

「サッカーに集中できているというか、日本にいたときからそういうところは意識していたけど、より気を配れるようになって成長した部分もある。意図的に体重を増やそうとはしているが、重すぎて動けなくなってもダメ。正解を探しながら取り組んでいる」
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肉体をさらに改造していくために栄養士の専門的な知見を求めた。そして年をまたいで迎えた3月。三笘が日本の救世主になった。

勝てば無条件でカタール行きの切符を手にできる3月24日のオーストラリア戦は、引き分けても勝ち点で3ポイントをリードしたまま、ホームの埼玉スタジアムにベトナム代表を迎える同29日のアジア最終予選最終戦を迎えられる状況にあった。許されないのは負けて勝ち点18で並ばれ、得失点差で後塵を拝するグループBの3位へ転落するケース。両チームともに無得点のまま進んでいった展開は、敵地での戦いを考えても許容範囲内だった。

しかし、森保一監督は後半39分に動いた。南野拓実(リバプール)に代えて三笘を投入した采配は、降りしきる雨のなかを戦っていた選手たちを奮い立たせた。

「(三笘)薫が入ってきたことが、ひとつのメッセージだった。僕自身、引き分けでいいとは考えていなかった。そこはチーム全体で共有できた」

こう振り返るのは、右サイドバックの山根視来(川崎)。ペナルティーエリア内へ侵入してきたインサイドハーフの守田英正(川崎―サンタ・クララ)を交えて、2020シーズンの川崎で培われた3人の完璧なコンビネーションで右サイドを崩したのは後半44分だった。

守田のリターンパスを受けてゴールラインぎりぎりから、上半身を捻りながら山根がマイナス方向へクロスを送る。以心伝心でゴール中央へ走り込んできたのは、三笘だった。

「(山根)視来くんがあそこでクロスを出すときは、フロンターレ時代からマイナスに来るとわかっていた。ちょっとダフり気味だったけど、コースは見えていた」

均衡を破った瞬間をこう振り返った、三笘の代表初ゴールは序章にすぎなかった。後半アディショナルタイムの4分。伝説として語り継がれる一撃が生まれる。

左タッチラインでパスを受けた三笘は、まず動きを止めた。次の瞬間、縦へ一気に加速してマーカーを置き去りにすると、さらに中央へカットイン。4人目の選手が迫ってきた刹那に右足を振り抜き、強烈な弾道で相手キーパーの牙城を破った。

「キープして時間を作ることも考えたけど、相手の選手も油断していたので意識的に逆を突いた。崩せば侵入していけるスペースがあったので、ここは行くしかない、と」

セオリーは時間稼ぎだが、相手が隙を見せれば話は別だ。川崎時代に時速31kmと原付バイクの法定走度を超えた自慢の高速ドリブルに、緩急とスピードを落とさずに切り返せるテクニックを融合。衝撃的なゴールが決まった直後に試合も終わった。

一転して代表3戦目にして初先発を果たし、フル出場したベトナム戦では1-1とまさかのドローに終わったなかで、三笘も「まったく納得していない」と自らにダメ出しした。胸中に募らせた悔しさをさらなる進化への糧にすると、三笘は力を込めている。

「ワールドカップ出場が決まった後だったのでまだよかったけど、決まっていない状況でこういうプレーをしてしまえば(レギュラー獲得は)難しくなってしまう。自分の能力も含めて、もっともっと追求していきたい」

短期的な目標に中長期的なビジョンを組み合わせている三笘の人生設計図には、今秋のワールドカップで大暴れを演じ、ごく近い将来に最高峰のプレミアリーグを席巻し、日本中の子どもたちのヒーローになるという自らの勇姿が描かれている。

連載:THE TRUTH
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文=藤江直人

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