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2022.04.12 06:30

生産拠点を消費地近くに移転させる「ニアショアリング」が活発に

Getty Images

世界的なサプライチェーン危機が続くなか、欧米の大手ブランドや小売企業が、生産地を本拠地の近くに移転させようとしている。こうした戦略変更で最も得をしそうな国のひとつがメキシコだ。

コンテナ輸送にかかる巨額のコスト。自社製品を米ロサンゼルスの港に滞留させている物流の停滞。スエズ運河を遮るように、横向きで座礁した貨物船。アジアにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の新たなロックダウンによる終わりの見えない混乱。こうした状況にうんざりした各社は、生産地を、消費者のいる市場近くに移転させている。

直近では、米国の玩具大手マテルが2022年3月半ばに方針変更を発表し、メキシコ北東部ヌエボ・レオン州の州都モンテレイにある工場の拡張に5000万ドルを投じたことを明らかにした。

同工場は、広さが225万平方フィート(約21万平方メートル)で、従業員数が3500人と、中国、ベトナム、マレーシアにある生産拠点を抜いて同社最大となった。マテルは2019年にアジアの工場2カ所を閉鎖したほか、最近ではカナダとメキシコの別工場の2カ所も閉鎖したうえで、この巨大工場を拡張した。

マテルの中南米担当マネージングディレクターを務めるガブリエル・ガルバン(Gabriel Galvan)は2022年4月1日、ロイターに対してこう語った。「消費地の近くで生産し、アジアから商品を輸送せずに済めば、コストが削減されて利益が増え、競争力も増す」

マテルは今後5年で、モンテレイ工場への投資を倍増させる予定だ。

生産拠点を最終消費地に近いところに移転させるこうした戦略は、「ニアショアリング(nearshoring)」と呼ばれる。この戦略をマテルよりも先に採用した企業は数多い。

小売企業がサプライチェーンの見直しを迫られているのは必然に思える。特定の地域や企業に生産を依存している場合はなおさらだ。極端な例を挙げるなら、日本の部品メーカーに大きく依存していたことで、ほぼ機能停止に陥った世界の自転車業界だろう。大阪を本拠とする自転車部品メーカーのシマノは、高性能のギアとブレーキの市場占有率が65%と推定されるが、同社部品のリードタイムは400日に達した。

生産拠点を消費地近くに移転する動きで得をするのは、米国と欧州それぞれの企業を支えるメキシコ、トルコ、北アフリカと、欧州の中部ならびに東部だ。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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