本日の相談者:45歳、不動産会社
「テレワークになって1年経過し、やっと自分もメンバーもこの環境慣れてきたように感じていました。しかし、あるとき、ずっと黙っているメンバーに「わかっているよね?」と問いかけると無言。なんと1年以上会議の内容についていってなかったことが発覚。どうフォローすればよかったのでしょうか?」
アドバイスしてくれるのは……
そわっち(曽和利光さん)◎1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。
わかってきたオンラインコミュニケーションの特性
コロナ禍に突入して2年以上が経過し、テレワーク化に伴うオンラインコミュニケーションに人々が慣れてきて、その特性もいろいろわかってきました。例えば、以下のようなことです。
・表情やうなずき、身振り手振りなどの動きが減る(ので何を考えているのかわからない)
・知的な情報は伝わりやすいが、感情は伝わりにくい(ので何でも言葉にしないとダメ)
・アイコンタクトができずに会話のキャッチボールがうまくできない(のでイライラする)
・発話速度は速くても伝達度には問題はない(ので2倍速でも大丈夫)
・テキストチャットの方が意見がよく出る(ので音声オンでの質問受けはやめたほうがいい)
そのうち、どんどん適応する可能性も
これらは、あくまで現時点での特性です。というのも、人間は新しいメディアには最初はたどたどしい使い方しかできないのですが、慣れればうまく使えるようになるからです。さすが人間「道具を使うサル」です。
これまでも人間は、車や電話、キーボード、スマホと新しいツールが出てきたときに、まるで自分の感覚をツールにまで延長させるかのように適応してきました。
今はまさに現在進行形で、全世界の人がオンラインコミュニケーションのトレーニングをしているようなものですから、近い将来、「感情が伝わらない」こともなくなるかもしれません。
わかっていても、わからない「気がする」という不思議
さて、そのような現時点でのオンラインコミュニケーションの特性のひとつに「伝達感(伝わった感)が得られにくい」というものがあります。
上述のように速く話しても情報は意外に伝わっているのにもかかわらず(事後テストで実証されている)、当の本人は「よくわからなかった」「伝わってこなかった」と思ってしまうようです。
とても不思議なことで、正直、私もその理由についてはよくわかりません。ただ、そもそも私たち人間は「我々は語ることができるより、多くのことを知ることができる」(マイケル・ポランニー)存在です。
わかっているのに、わからない気がするという状態自体はよくあります。
もしかすると本当はわかっているかも
マイケル・ポランニーはこの「わかっていないと思っているのに、実はわかっている」知識を「暗黙知」と呼びました。
自転車に乗れる人は自転車の乗り方を説明できるとは限りませんし、英語ペラペラな人が自分の話した言葉の文法を説明できるとは限りません。でも彼らは確かに自転車に乗れ、英語が話せるわけですから、絶対に「わかっている」のです。
ですから、ご相談内の「ずっと黙っているメンバー」が1年間も本当にわからないまま過ごしていたのかどうか、決めつけるのは時期尚早かもしれません。
伝わっているから身体はわかっているのに、伝わった感はないので頭はわかっておらず、言葉にできないということです。