経済・社会

2022.04.16 17:00

ロビイストが見た「プーチンVS米国Psyops(心理戦)」情報

2022年2月14日、ロシア・モスクワでセルゲイ・ラブロフ外相と会談するロシアのプーチン大統領(Photo by KREMLIN PRESS OFFICE/Anadolu Agency via Getty Images)


米国はPsyopsを仕掛けたのか?


以上が、ビジネスに応用されたPsyopsの一例だが、このような心理戦に携わるプロの書く分析メモにはパターンがある。何がその人物を感情的にさせ、何にトラウマを持っているかだけでなく、結果として何が本人を怒らせ、何をすると心を許すのか、どのような信用表現をするのか、そういった点にまで突っ込む。むしろ、そこまで書かれていないと、金を払う意味はない。
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この価値基準は、私が米議会で働き始めたころ、国防総省をリタイアした軍事専門家から非公開の北朝鮮に関する情報を聞いた時に会得した。

例えば、現指導者である金正恩の父親にあたる金正日は、母親を自分の出産のときに出血多量で亡くしている。このような情報はグーグルで調べればすぐに出てくるので何ら秘密でない。

しかし、米国政府の諜報部は、同盟友好国の情報も取り入れつつ、金正日は母親の死を実父である金日成が故意に仕向けたもの、つまり出産による大量出血ゆえ「救えたのに死なせた」と深い怨恨を抱いていると見ていた。それだけではなく、金正日が記念式典などで継母と鉢合わせると感情的になり、椅子を投げつけるなどの行為をしていたとの情報も上がっていた。
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つまり、過去のどのような経験がトラウマになっているかだけでは意味がなく、結果、何が怒りを着火させるのか、癒しや信頼はどこでどのように発露し得ているのかまで、調査に含まれていることがポイントなのだ。

何が言いたいかというと、米国は長年ロシアを敵対国と見ており、その頂点に20年以上も同じ指導者プーチンが就いてきた。そのプーチンをあらゆる情報源を使い、収集し、分析したメモはおそらくかなりの分量で存在し、そのマッチョ主義や予測できない冷酷な感情の発露などは研究し尽くされている。

当然、このような状況に追い込めば、このような行動に出る可能性が高いといった心理分析の類もあるはずで、米国政府は、どのようなPsyopsをプーチンに対して仕掛ければ、結果として何を引き起こすかもある程度知っていたとしてもおかしくない。

しかし、この米国の「仕掛け」に関して誰も確認できないし、そもそもプーチンに対する米国政府または周辺の発言は、あくまでも西側諸国の支持を取付けるための「支援環境」醸成のためと優等生的に答えるのは目に見えている。ただ言えるのは、米国にはPsyopsを仕掛けたと疑われても仕方がない心理戦能力があるということだ。

そんななか、前述の元CIAの高官であるジャック・デバインは、暴徒・残虐化したロシアの態度変容には、ロシアの政権交代が必須であることを笑顔で淡々と語っていた。先ほどは触れなかったが、私が関わった買収話における相手会社の経営者分析案件は、すべてではないが一部をジャックの会社と組んでやっており、そのレベルの高さには定評がある。

しかるに彼のバイデン大統領援護の発言がさらなるPsyops(心理戦)でないという保証はどこにもない。それらの識者の直近の言動は、プーチンのみならず彼の「考えを踏襲した後継者」が続く限りロシアの国際社会に於ける復権は無いとしており、そうした論調から今後もますます目が離せない。

連載:米ロビイストが見た世界裏事情
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文=山崎ロイ

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