経済・社会

2022.04.16 17:00

ロビイストが見た「プーチンVS米国Psyops(心理戦)」情報

稲垣 伸寿

このような仕事を受け持つ際、私は通常インテリジェンス会社と一緒に組んで調査するのだが、その組む条件として最も重視するのが、しっかりとした情報収集や分析能力は当たり前で、その投資先の経営にどれだけ近い人間を人脈として既に取り揃えているかである。もちろん経営者本人ではなく周辺の人脈にだ。

経営者の精神状態を調査するインテリジェンス会社といっても全知全能のチームなど存在せず、案件毎にその会社が保有する人脈をチェックし、私は複数社をいつも比較検討する。

仮に日本企業が揃って起用している有名なインテリジェンス会社を名前だけで声掛けした場合に、実はその会社には買収するターゲットの関係者に通じる人脈が無かったりして、初めて電話をするような担当者を雇ってしまった際には悪夢となる。

幸運にも、私が起用したのは、かつて米国政府の諜報部門に所属していた社長が経営する中堅コンサルで、投資先のワンマンとされる経営者の側近やクビになった元幹部、はたまた絶縁された親類にまでつながる人脈を持ち合わせており、その点についてNDA(秘密保持契約)を結んだうえで起用した。

結果、その調査分析は凄まじいものであった。そのワンマン経営者は、自分が見染めて1本釣りしたはずのやり手の部下も、仕事ができると知れば知るほど「いつか裏切る」との疑心暗鬼が膨れ上がり、その部下を昇進させるのと並行して代わりの人材を探し始めるなど、異常な警戒心が浮かび上がった。

またコンサルが集めた絶縁した親類による情報では、その経営者は両親より早い頃から自分で生きることの鉄則を叩き込まれ、幼少の頃より仲間は少なく、近しい友人にも信頼を置かない。

事実、現役の幹部によれば、経営会議メンバーで腹を割って話している人間は皆無で、ライン外の社内弁護士に不安を吐露して、脈略も無く重要な経営判断に関する相談をしているという実態も明らかになった。

極めつけは、レポートによれば、本人が心を許した際には必ず予定を事前に組むことなく「その日の夜に酒を飲みに誘う」とまで書いてあり、実際に私のクライアントは酒に誘われていた。しかし、幸運なことに(?)予定が合わず断っている。
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文=山崎ロイ

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