「非同期」のコミュニケーションにより、1カ月で約240時間の会議時間を削減
SOMPOホールディングスは、老朽化・複雑化したシステムの刷新を目的とした「未来革新プロジェクト」を2015年4月にスタートさせた。そのシステム開発を目的に設立されたのがSOMPOシステムイノベーションズだ。同社主任エンジニアの西山龍弥が説明する。
「保険商品は、その時代や社会の状況に合わせて商品を素早くお客様に提供しなければなりませんが、従来のシステム構造のままでは時間がかかるし、コストもかかります。スピード感をもって開発していかないと、商品をお客様にタイムリーに届けられません。そこでオープン系のシステムに舵を切ったのです」
システムの刷新は、2,000人を超える人員がかかわる大規模なものだ。インフラやアプリケーションなど分野ごとのチームに分かれているが、その数は50に及ぶ。数の多さゆえに、ほかのチームが何をしているかが見えず、コミュニケーションに課題があったと西山は打ち明ける。
「日々発生する課題の解決を検討し、チーム内で合意形成し、キーパーソンに意思決定してもらうことの繰り返しがプロジェクトの成果につながります。キーパーソンが会議で発言したり、メールで回答したりして意思決定していたのですが、それだとどういう経緯で決まったのかが曖昧です。決定した内容が違うチームの現場に展開されたとき、なぜその結論にいたったのかがわからず、問題になることもありました」
大組織ゆえにサイロ化してしまい、チーム間での情報共有がなされていなかったのだ。プロジェクトが大きければ大きいほど、関わるチームや人は増え、合意形成にも時間がかかる。その結果、コミュニケーションに膨大な時間とコストがかかっていたのだ。その最たるは会議だ。
「課題の検討をはじめ、会議は毎週、山のように開催されていました。しかし参加しても進捗報告だけで時間が過ぎ、皆無駄を感じていたのが正直なところです」
この課題を解決するために2年前に導入したのがビジネス向けのメッセージプラットフォームであるSlackだ。ほかのツールも検討したが、Slackは、組織間の壁を意識せずにコミュニケーションの場をつくれることが魅力的だったと西山は言う。
「他のツールではチャットルームに途中から入ると、現在までの経緯を追いづらく、閉鎖的な部分がありますが、Slackは横や縦の垣根をなくし、オープンにコミュニケーションをとることができます。それが当社のプロジェクトにフィットすると思い、導入を決めました」
西山龍弥 SOMPOシステムイノベーションズ 主任エンジニア
導入するとすぐに効果が表れた。Slackは、プロジェクトや部署ごとに会議室のようなオープンなチャンネルを設定し、テキストや画像、映像などを自由に投稿し、それを共有することができる。そのSlackのチャンネル上で情報共有することで、それぞれが好きな時間に情報を取得できるようになった。つまり、「非同期」のコミュニケーションが取れるようになり、会議を大幅に減らせるようになったのだ。ちょうど導入直後に新型コロナウイルスの感染が拡大し、オフィスの出勤ができなくなったが、Slackの活用により、働く場所や時間はより柔軟になった。
同社では社員に多くの時間を創出したのだ。
西山が日々活用しているSlackによる情報共有
メールではできないオープンなコミュニケーションで組織の壁を超える
Slackは副次的な効果ももたらした。同社では組織を横断して物事を決めることが多いため、フラットでオープンにコミュニケーションをとれるようなチャンネル設定を行った。50チームそれぞれがチャンネルをもつとともに、全員が参加するチャンネルもあり、目的に応じて使い分けるようにした。それによって、コミュニケーションの質が高まったと西山は実感を口にする。
「長いプロジェクトなので、チームに途中参画する人がいたり、チームが再編成されたりと、人材には流動性があります。過去の経緯やノウハウといった情報もすべてチャンネルに集約されていくので、属人化を防ぎますし、チームとしてのナレッジもどんどんたまっていくという効果が見えています。途中参画したメンバーもチャンネルの履歴を見たり検索したりすることで早期のオンボーディングが可能になります」
オープンなパブリックチャンネルで情報共有や議論が行われることで、チーム内の誰がどのようなことに詳しいかが明らかになっていった。問題に直面したときに詳しい人にたずねることで、有効な情報を引き出しやすくなったのだ。
チームを横断したアナウンスも一気にできるようになった。それはメールよりもメッセージが伝わりやすいと西山は言う。
「いままでトップのメッセージなどは、メールを一斉送信して終わりで、多くの社員は返信をしていませんでした。それがSlack上でのメッセージだと、絵文字でリアクションしたり、スレッドに『私はこう思います』といったような意見を気軽に発信したりできるようになりました。心理的な壁がなくなり、立場や所属を超えた双方向のコミュニケーションが圧倒的に増えました」
Slackを活用した全社アナウンスの事例
社員同士のコミュニケーションも従来はメールが主流だったが、Slackのチャンネル上で大半を行うようになり、やり取りがほかの社員にも見えるようになった。その結果、部署や組織を越えたコミュニケーションが可能になり、進捗管理や生産効率の向上に寄与している。
それによって、物事をクローズドな場で決めることが減った。提案をする際に従来のように事前にキーパーソンに接触する必要がなくなり、Slackのオープンな空間で直接発信をすることで、軌道修正しながら進めることができるようになったのだ。
「従来は、現場の人が頑張って資料や企画書を作成しても、組織階層ごとやメンバーごとによって重要なポイントや考えていることが微妙に違うため、やりなおしやその都度検討メンバーを増やす、というようなことも少なくありませんでした。それを早い段階からオープンに伝えることで、やり直しという無駄が減ってきています」
経営トップのメッセージに関しては、チャンネル内の動画と音声の共有機能であるクリップも活用している。Slackの全員参加のチャンネルに、録画したメッセージを投稿することで、社員は好きなときに視聴し、リアクションすることができる。会議のように一堂が集まる「同期」のコミュニケーションを減らし、好きなときに情報を得る「非同期」のコミュニケーションを促進しているのだ。
クリップは、ほかの用途にも活用できるのではないかと西山は考えている。
「例えば、PCの設定変更の周知をする際は、担当者がスクリーンショットを用意し、手順書を作成して全社員に配布していましたが、動画だと画面上で操作しながら説明できるので、作成が楽ですし、見るほうもわかりやすい。例えばSlackのような新しいツールを導入する際、説明会で手順書を用いて時間をかけて説明する必要がありましたが、動画なら数分で説明が終わります」
他ツールとの連携で管理簿の運用を自動化
業務効率化に関しては、「ワークフロービルダー」を活用して自動化することにも取り組んでいる。
プロジェクトを遂行するには、周知徹底しなければならない項目が非常に多い。誰が誰に依頼したかなどが記された管理簿が大量に存在する。Googleスプレッドシートに集約している情報を、ワークフロービルダーを活用して、自動連携したのだ。さらに派生する依頼や質問をSlack上のスレッドで投稿できるようにしたことで効率が飛躍的に向上していると西山は説明する。
「これまでは依頼内容を見てわからないことがあったら、担当が誰であるかを確認し、問い合わせるという作業が必要でした。いまは具体的な依頼や質問の内容をSlack上に投稿すると、回答をもっている人が返信してくれます。スレッド内のコミュニケーションで解決できるようになりましたし、情報が蓄積されるので、同じ問題を抱えた人は、過去のスレッドを見るだけで解決ができます」
自動化を進めることで、情報へのアクセシビリティが飛躍的に向上したのだ。他ツールとの連携をいっそう進めることでアクセシビリティがさらに向上し、生産性がより高まることを西山は期待している。
「プロジェクトの遂行は、日々の課題を解決し、また新しい課題が生まれるという連続なので、その管理を徹底的に簡素化することが生産性を高めるうえでカギになります。Slackとほかのツールとの連携を進め、自動化・半自動化していくことでそれを推進していきます」
Slackをあらゆる業務のDigital HQ として活用することで、生産性が加速度的に向上しているSOMPOシステムイノベーションズ。その成功体験によって西山が先に見据えるのは、グループ全体でのSlackの活用だ。
「当社で成果が現れていることを踏まえ、持ち株会社であるSOMPOホールディングスや事業会社である損保ジャパンなど、グループ全体での活用を進めていくことを検討しています。SOMPOグループでは保険商品だけでなく介護などの事業も展開しているので、それらのビジネスを迅速に発展させていくために会社間でも気持ちよくコミュニケーションできるようにSlackを展開させていきたいと考えています」
DIgital HQ
https://slack-japan.jp/digital-hq/s/
西山 龍弥◎SOMPOシステムイノベーションズ 主任エンジニア。2016年から同社の刷新プロジェクトに参画し、ユーザインターフェイス標準化やセキュリティ対策運用刷新(脆弱性スキャナ導入)など共通機能の導入や開発保守に携わる。
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#1 本記事|Slackで情報をオープン化、SOMPOシステムイノベーションズが推進する“会議革命”と業務の自動化
#2 公開中|“物理的な近さ=意識の近さ”ではない。凸版印刷 デジタルイノベーション本部が導入したコミュニケーション・ツールSlackの実力とは
#3 公開中|オープンコミュニケーションで“情報格差”を解消。Slackを中枢に据えたLIFULLのコミュニケーション改革