英経済学者のジョン・メイナード・ケインズが、いみじくもこう述べています。「理不尽な世界で理にかなった投資をするほど自滅的なことはない」
本来の価値というものは、長期的に必ず明らかになるものですが、短期的には、ポートフォリオ・リバランスや風評、報道、一時的な流行、季節性など、経済の基礎的要件(ファンダメンタルズ)とは無関係のさまざまな要因により、相場は変動し、個別銘柄は値動きを繰り返します。
ケインズ卿はこうも言いました。「最終的には誰もが死んでいくというのに、投資家の心配事といえば、金融機関から証拠金の不足を知らせる緊急のマージン・コールを受けることだ」
各種の経済報告書を常にウォッチしておくことは重要ですが、意外と取引や投資では見過ごされがちです。iPhoneを使ったリアルタイムのオンライン・コミュニケーションが普及した今、その利点と欠点は、金融市場でも顕著です。
というのも、長期的な価格の動向は、後から振り返れば明白に思えるかもしれませんが、短期的には市場の値動きは、尽きることのない「報道」や、経済報告書、統計、利益などの“ノイズ”に左右されるからです。
市場ニュースのスピードが高まり、対象が広がると同時に、それをどう解釈するかや、市場の反応をより正確に管理することの難しさも高まっています。経済指標や市場ニュースを読み解こうとする際、世界の金融市場は『不思議の国のアリス』の世界さながらに、よいニュースがじつは悪いニュースであったりする可能性もあり得ると理解しておくことが重要です。
そうしたパラドックスに惑わされないためには、どういった経済的背景の中で行われた報道なのかをみきわめることがポイントになります。
報道について言えば、それ自体ではなく、その報道が与えるインパクトを正しく予測することが、熟練した投資家として最も役に立つスキルの一つです。金融市場では、データが必ずしも、そうあるべき(とわれわれが考える)インパクトをもたらすわけではありません。当初は「魅力がない」ように見えた銘柄でも、その後、着実に買いが続くこともあります。一方で 、アナリストが明らかに強気の予想を立てた銘柄が、一気に売られるケースもあり得ます。
グローバル市場で生き残り、成功する術を身につけた投資家であれば、市場機会やより高い/安い/同等の銘柄への買い替えの可能性に関し、こうした情報フローを使って賢明な予測を繰り返していきます。マクロ経済のフローも、例えばハイテク銘柄からヘルスケア・製薬銘柄に買い替えるべきか否かをみきわめるような個別セクターの動向を判断する際には重要な役割を担っています。