多国籍の人材が自律的に躍動し、グローバル市場で競争力を発揮してビジネスを拡大していく──。大企業やメガベンチャーでさえ、志向してもなかなか実現できないこのモデルを、大分県・豊後高田市の小さな会社がものにしつつある。
ワンチャーは、実用品と高度な伝統工芸を組み合わせた自社ブランド製品の企画・製造・販売がメイン事業だ。2021年12月期の売り上げは4.4億円(前期比30%増)の見込みで、そのうち約85%を海外市場で稼いでいる。外国人社員の比率も約80%で、単なるキャッチフレーズではなく、実態として「英語が社内公用語」でもある。代表取締役社長の岡垣太造は「英語だからこそのオープンなコミュニケーションとフラットな組織がビジネスを活性化させている実感があります」と話す。
主力製品である万年筆を例に、ビジネスの大まかな流れを見てみよう。社内で製品を企画してプロトタイプを製作した後、協力工場に委託して部品を生産し、輪島塗など伝統工芸の職人による装飾加工を経て、最終的な組み立ては再度自社で行う。これを自社サイトや外部のECプラットフォームで販売しており、製品の価値をグローバル市場に訴求するのに外国人社員が大きな役割を果たしている。
製品企画やプロト製作は社内で行い、協力工場に委託して部品を生産、職人による装飾加工を経て、最終的な組み立ては再度自社で
「米国、欧州、中国を中心にワンチャーブランドの万年筆は顧客基盤が強固になってきています。その地域出身の社員を中心に、それぞれの市場に適したマーケティングを行ってきた成果です」
職人が高度な技術力を発揮した「一点もの」が好まれるのは世界共通でも、顧客の感性には地域的な特性がある。それを踏まえた「ユーザーに刺さるストーリー」をECサイトのUIに組み込み、顧客体験の最適化に取り組んできた。テキスト情報や画像はもちろん、注力製品も市場ごとに変えている。SNSを活用して地域・国ごとにファンコミュニティを立ち上げるなど、市場のすそ野を広げつつロイヤルカスタマーをつくるための施策も展開してきた。
米国では16年に「Kickstarter」を活用した購入型クラウドファンディングを実施して、ブランディングの足がかりとした。 「社長、うちはお金がないんだからこれやってみましょうよ、と社員に言われましてね」と苦笑交じりに振り返る岡垣だが、コマーシャル効果は絶大だった。インフルエンサーの評価が強烈な追い風になった。
数年活躍した外国人社員が、自国に戻ってワンチャーの販売代理店を立ち上げるケースもある。すでに中国、台湾、ベトナム、米国などで事例があり、世界各地で販路の拡大も着実に進んでいる。