フィンクが率いるブラックロックは、保有資産10兆ドルという、世界最大の資産運用会社だ。各社はこれまでおおむね、フィンクの助言どおりに動いている。
確かに、一部には、グリーンウォッシングと呼ばれる、PRに過ぎない、見せかけだけの環境保全プロジェクトも存在する。しかし大多数の経営者は、フィンクの言葉を真剣に受け止めている。
これは、政治的右派にとっては残念な話だ。こうした政治的右派は、「ツリーハッガー(tree-hugge:樹木にしがみついて伐採に反対するような、過激な環境保護主義者)的な価値観を追求したら、利益が減り、経済が阻害されてしまう」と主張しているが、こうした主張には、控えめに言っても反論の余地がある。
しかし今、ロシア・ウクライナ戦争によって、世界的なエネルギー危機が到来した。EUは、ウラジーミル・プーチン露大統領とその側近らに対する経済制裁に参加しているが、一方でヨーロッパは、まだロシアの天然ガスを欲しているようだ。
全体的に言えば、石油と天然ガスの供給は縮小していくだろう、とアナリストは予測する。米国の連邦準備銀行のひとつであるダラス連邦準備銀行によれば、主要エネルギー輸出国であるロシアの石油輸出量は、2022年に3%減少する見通しだ。ジョー・バイデン米大統領は、米国で産出される液化天然ガスのヨーロッパへの輸出を強化するため、気候変動対策の一部を後退させ、エネルギー生産を増加させて不足を補おうとしている。
一方でフィンクは、各社に気候変動対策を進めさせようとするアプローチが適切ではないとして、一部から激しい批判を受けている。ウエストバージニア州財務長官である共和党のライリー・ムーアは、州の銀行取引からブラックロックを締め出す計画を示している。ムーア財務長官は、ブラックロックのネットゼロ目標は、ウエストバージニア州の石炭産業に損害を与えると主張している。
テキサス州議会も、ブラックロックを念頭に、「(米国の)エネルギー産業をボイコットする」資産運用各社に対して、州政府機関が公金を投資することを禁じる法案を通過させた。同様の法案は、アイダホ州議会でも準備されている。ただし実際には、フィンクはエネルギー株をまだ保有している。
バイデンがネットゼロ目標を後退させ、共和党州が反発を強めていることに対して、フィンクはどう反応しているのだろうか。それは、「グリーン志向の投資は、その定義上、大したリターンを生まない」という批判に対し、彼が答えている意見と基本的には同じだ。
フィンクによれば、むしろグリーン投資のほうが優れた結果につながる。というのも、気候変動対策に前向きな企業は、汚染物質を排出しないため評判リスクを抱えず、またネットゼロという未来に向かう現在進行形のトレンドに乗ることができているからだ。
フィンクは、ブラックロックの株主向け書簡のなかで、「最近起きたいくつかの出来事は、むしろ世界中でグリーンなエネルギー源への転換を加速させている」と述べている。
フィンクは、新型コロナワクチンが、状況の切迫性に突き動かされ、極めて短期間で開発されたことを例に挙げつつ、このように述べている。「すでにヨーロッパの政策決定者たちは、再生可能エネルギーへの投資を、エネルギー安全保障における重要な要素と位置づけている」
「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、例えばドイツは再生可能エネルギーへの転換を加速させている」とフィンクは述べている。「ドイツは、侵攻前の目標を15年も前倒しして、2035年までに再生可能エネルギー100%を実現する計画だ」