マリンは、そのとき近くにいた、公私ともにパートナーであるアンドリュー・ゲッツ(Andrew Goetz)に聞こえるように、そのブランドの説明文を読みあげた。
「クリーンでシンプル、ミニマリスト、ジェンダーニュートラル。何だか聞き覚えがあるね、と私はアンドリューに言った」。パッケージも、Malin+Goetzのものと似ていた。
Matthew Malin and Andrew Goetz(Getty Images)
こうしたやりとりは、2人が18年前にMalin+Goetzを共同創業して以来、何度も繰り返されてきたものだ。けれども、頻度が増したのはここ5年のことだ。その背景には、「クリーンでインクルーシブなコスメ」を求める声の高まりもあって、世界的なスキンケア市場が爆発的な成長を遂げ、1340億ドルもの規模に達したことがある。
「ジェンダーフリー」は美容業界の最新ムーブメントであり、その背景にはユニセックス・ファッションの人気がある。こうした動きの中心となっているのは、Malin+Goetzにとって重要な市場でもあるZ世代だ。
マーケティング企業ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)が2019年に行った調査によると、その年に、自認するジェンダー以外を対象にした服を購入したことがあるZ世代は56%にのぼった。また、メディア企業のVice Mediaが実施した2020年の調査では、Z世代の41%が、ジェンダースペクトラムにおいて中性と自認していることがわかった。
マリンの話では、ライバル企業が続々と誕生しているなかでも、Malin+Goetzの売上に影響は出ていない。インターネットで「genderless beauty(ジェンダーを問わないビューティーブランド)」と検索する人が急増したことで、新規顧客がなだれ込んでいるようだ。「スタートアップ各社が、ジェンダーニュートラル向けマーケティングに多額を投じている。当社は、そうしたブランドが大量に行うマーケティングからメリットを得ている」