キャリア・教育

2022.04.04 16:00

「退職後の蓄え」について求められる意識改革とは

鈴木 奈央

Getty Images

現在の退職金・年金制度は、長寿化に即していないどころか、大半の労働者の人生設計にも対応していません。世界経済フォーラム(WEF)のアジェンダからご紹介します。


・現在の退職金・年金制度は、人々が健康で長生きするという現状を想定して設計されたものではありません。人々の仕事と健康状態が変化し、かつてないほどの長寿化となった時代に、学校、仕事、退職という従来の3段階の人生設計はもはや機能しないのです。

・多くの人々は、退職後も20~30年生きるため、定年後も仕事を続けることを望んでいます。一方、老後も安心して暮らせるだけの経済力を維持するために、長く働かねばならない人々もいます。

・社会の高齢化が進み、多くの女性が男性より長生きするようになると、ジェンダーや人種間の格差、高齢労働者のニーズの変化、ギグワーカーの増加などに対応するために、老後の貯蓄格差への対処を見直すことが必要となってきています。

人口動態の変化


世界の人口動態の変化は、数字だけを見ると理解しづらいものがあります。人間の平均寿命は産業化時代以降に急伸し、1900年から2000年の間に2倍になりました。現代の豊かな国で生まれた乳児は、その半数以上が100歳まで生きると、科学者により予測されています。

しかし、世界的な少子化の影響で、現在では5歳以下の子どもよりも60歳以上の人口が上回っています。実際、世界保健機関(WHO)によると、今後30年で、世界の60歳以上の人口比率は12%から22%へとほぼ倍増すると見込まれているのです。

現在の退職金・年金制度は、かつてないほどの長寿化や、仕事と健康状態の変化という現実に即していません。大半の労働者の人生設計にも対応していないのです。スタンフォード・センター・オン・ロンジェビティ(Stanford Center on Longevity)はこのほど、30年の余生を 「人生のあらゆるステージに戦略的に分配できる配当」とみなすべきだと示唆しました。

あらゆる人々の経済面のニーズは、人生100年時代の中で変化してきています。そのような変化に対応するために、私たちも想像力を豊かにし、新たな政策や改善策を立てなければなりません。

マルチステージの人生を送る


すでに世界中の数百万人もの労働者は、学校に通い、キャリアを積み、退職するという従来の社会的規範を打ち破っています。育児、介護、昇進や転職のための新しい技能習得に向けて、中年期であっても学校に戻るなどして、一時的に仕事を中断することもあります。ギグジョブで、オンデマンドでの仕事や、自分でスケジュールを管理できるフリーランスの仕事を選択する人々もいます。

一方、高齢になっても、退職を望まない人々も存在します。まだまだ健康で生産性も高く、職場との連帯感も捨てがたいうえ、仕事によって体に負担がかかることもおそらくないだろうと感じているのです。段階的な引退を目指し、週に数日勤務することを希望する人もいるでしょう。一方で、従来型の定年での完全引退を待ちわびている人もいます。
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文 = Haleh Nazeri, Platform Curator, Financial Services, World Economic Forum

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