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2022.04.13 10:00

コロナ観光業損失1500億ユーロのイタリアを救う? 「日本発」農法の再生力


観光プログラムは「再生型ツーリズム」の観点から──


だが残念ながら、料理人もホスピタリティ業界のスタッフの大半は、おそらくその土地の土壌の性質や、我々が直面する世界的な食糧システムの課題、その回復にどのように貢献できるかをほとんど知らないのが現実だ。

しかし土地の伝統的な自然共存の知恵は、何千年、何百年にもわたって自然との健全な関係を維持してきた地域に根ざした文化の保持者、長老者にかろうじて残っている。彼らのような人に光をあて、料理人やホスピタリティーの従事者と出会わせ、一緒に再生型農業を支援するよう促したり、観光客向けのメッセージや教材を共同開発することは再生型ツーリズムの具体的な第一歩となる。

再生型ツーリズムの観点で観光プログラムを拡充させていけば、地元農家にとっても、農業以外の収入源を多様化する機会になる。例えば家族連れ向けのホームステイやファームツアー、ネイチャーセラピー、農作業やスポーツ、食の生産工房訪問、野草採取や料理教室、土地や泥炭の修復、森林再生、水路の清掃など、従来の観光では出会えなかった地元の人たちとの関係を深めてくれるような機会を創出することが地域の再生にとってプラスとなる。イギリスやオーストラリア、米国や南米でもこのような再生型ツーリズムの舞台となる農家が次々に脚光を浴びはじめている。

農家が単体で孤軍奮闘するのではなく、地元のコミュニティとの体制づくりがキーとなる。これが上手くいけば、観光客に提供する体験を共に設計するプロセスにおいても、コミュニティ全体で技術やサービスのシェア、共同開発、収益をあげながら地域を再生することが可能になる。

「土壌保全は国益」を定義した新法案も


今年3月、イタリアでは15年以上前にジーノ・ジロロモーニ氏という有機農業の父と言われる農家が発起人となった新しい法案がようやく成立した。


「有機農業の父」ともいわれるジーノ・ジロロモーニ氏

これによって、土壌を守ること、そして環境負荷の少ない農業のあり方は社会的に国益にかなう活動であるとはっきりと定義されたといえる。今後、ヨーロッパでは間違いなく環境負荷の高い農業を続ける企業への課税や、逆に環境再生型の取り組みを進める農家への手厚いインセンティブなどの制度化が進むだろう。

こういった流れは、農家の環境再生活動への意識改革を後押しする。また観光業においても既にコミュニティ開発投資の資金を観光客に滞在費の2%ほどを提供してもらうメキシコのリゾートの取り組みなどもあり、農業側・観光事業側双方からの投資を集めることができればますます再生型ツーリズムの可能性は広がる。

今後はレストラン事業者が再生型ツーリズムに関わることを奨励するような仕組みも望まれる。いずれにせよ観光業の抜本的な再生に向け、宿泊業への補助に留まらず、今までとは違うアプローチで農家や料理人・市民団体などを国や自治体が幅広く支援していくことが必要な時代になっていくことは間違いない。

文=齋藤由佳子 編集=石井節子

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