熱狂的に支持される福岡正信の「Fukuoka式」も
実は欧州では、昭和初期の伝説的な日本人農業哲学者、福岡正信が唱える自然栽培が熱狂的な支持者によって今も支えられており、イタリアでも「Fukuoka式」の米や穀物、ワインなどの栽培が行われている。このような農法が自然環境とトレードオフにならない農業の選択肢であることは間違いないが、実際は自然栽培だけで十分な食糧供給量を担保することは極めて難しい。
また一度慣行農業で土を掘り起こし、農薬を散布した土壌を回復するのには何年もかかる。現代において自然栽培の難しさはその再現性にもあった。しかしこの協生農法は環境回復を促す超生物多様性を実現しながらも収穫量など有用性を最大化することが出来ることが実証されている世界でも稀に見る例だ。今後注目すべきは、そのような超多様性のある環境が人間の健康面に与える影響だろう。
現代の慣行農法で収穫される野菜は、ここ数十年で著しく栄養素を落としていることが指摘される。
文部科学省の「日本食品成分表」の1950年と2015年の比較では、ニンジンや大根、ほうれん草などの鉄分は8割以上が失われ、亜鉛やマグネシウムなど全体的なミネラル欠乏が指摘されている。理由は明らかに土壌の劣化、特に土壌微生物の多様性が損なわれ、植物が微生物のサポートを得られず土壌からミネラルを吸収できない状態にある。
植物の多様性は土壌菌の多様性にも直結する。そして土壌微生物の多様性は私たちの食物の栄養素に直結するのだ。ヘルス・ウェルビーングツーリズムという意味でもこのような健全な栄養価の高い農業の基盤は重要だ。
観光事業の再生に、料理人や農家を巻き込む流れが加速している
ツーリズムの話に戻ろう。ドロジュドフスカ氏はガストロノミーツーリズムの潮流として、その土地の大地のエネルギーをいただく地元産の多様なパワーフードへのアクセスに注目が集まるだろうと予測している。貴重な珍しい在来種の野菜、旬の野草や山菜など都会では流通していないような食材に出会う旅だ。
多くの場合、旅行先で観光客は、その土地ならではのものを探し、その土地をその土地らしく彩る文化的な体験やその文化に変化をもたらしているイノベーティブな人々のストーリーを求めている。
「どの観光地も地域ならではの “味” で差別化を図っています。そしてその生産手法がサステナブルであることで付加価値をつけて売り込むことは当たり前となりました。
消費者との接点が非常に多い料理人や接客業の従事者はローカルツーリズムの優秀なマーケッターです。ですから今後はもっと料理人やサービス従事者が再生型の地域の観光、そして農業とエコシステムの大事な一部を担ってくれるよう促していく必要があるのです」