中小企業や若い世代に宿る「強い意志」
一方、中小企業を中心に、本質的にサステナビリティを追求している企業もあります。
例えば、三鷹市の鴨志田農園。近隣の民家からでた生ゴミを活用した無農薬・無化学肥料で野菜を作ったり、コンポストアドバイザーとしてネパールでの生ゴミ堆肥化の国家プロジェクトを推進したりしている企業です。
園主である鴨志田さんは、「Farm to Tableができれば、Table to Farmもできる。生ゴミは濡れていると温室効果ガスであるメタンガスが出るので、都市に住んでいる人は、洗濯ものを干すようにゴミを干すべきだ」といいます。このメッセージはパワフルで、人々を動かすのに十分な説得力があります。
それに加えて、若い世代、特に高校生や大学生のサステナビリティへの関心はとても高くなっています。先のイベントでも、企業が出店するブースで真剣に話を聞く参加者の中心にいるのは学生でした。大人や企業が動かないことに対してフラストレーションを覚えている学生も少なくなかったように感じました。
企業が「自分ごと」にするために
このように、大企業の形式的な取り組みが散見される背景には、サステナビリティを「企業ごと化」できていない現状があると考えています。その理由のひとつに、サステナビリティ分野に各企業のエースを投入していない、受動的な姿勢があるのではないかと思います。
その場合、2〜3年毎の人事異動でたまたまそのポジションについた役員や担当者に、環境と企業がWin-Winになる取り組みを考えてもらうことは非常に難しいでしょう。サステナビリティへの投資と事業としての収益性を両立させるには、小手先の取り組みではなく、全社的な事業構造の改革が必要になるからです。
冒頭のイベントのある講演では「過去何年ものあいだ、大人が何ら変わっていないことに失望した」とまで発言した学生もいました。うなずける反面、企業も決して現状を変えたくないと思っているのではなく、それぞれが頭を悩ませていることを筆者は理解しています。なぜならば、サステナブルなアクションにどのようにして企業活動としての合理性や採算性をもたせるのか、という本質的で難解な問いに答えることは簡単ではないからです。
しかしだからこそ、経営者は影響力のある優秀な社員に「サステナ事業開発」に取り組ませて、デジタル技術を活用したり、パートナーシップを業界の外に広げたりする事業構造改革を中期的にリードしてもらい、「企業ごと化」を進めていく必要があるのではないでしょうか。
加藤順也◎LVMHグループ、Kurt Salmon US を経て、世界大手のマテリアル企業で日本支社のマネージングディレクターを務める。小売業や消費財メーカーへのコンサルティングやRFIDを筆頭とするデジタルIDソリューションの開発が専門。上智大学卒。UCバークレーHaasビジネススクール DLAP修了。