シュルツさんは眠れぬ日々を過ごしました。
「痛みを伴う改革でした。痛みは永遠に取り除くことなどできない。父親の受けた仕打ちを忘れたことはなかった私にできることは、同じ過ちを二度と繰り返さないということです」
転機は、1万人を超える店長が集まるリーダー会議を、ハリケーン・カトリーナで大きな被害を受けたアメリカ南部のニューオーリンズで開催したことでした。
被災から3年経っても復興の進まない地で3000万ドルを超える予算で4日間の会議を実行しました。1万人の宿泊費や滞在費を現地に落とすという大規模な復興支援となります。
しかし、それだけではありませんでした。被災者支援のためにリーダーたちによる累計5万時間のボランティア活動も行ったのです。
スターバックスは何をめざしてきたのか、他の企業と何が違うのか。あらためて会社の価値をわかちあったことで、集まった1万人のリーダーたちに会社を愛する強い思いが再び沸き上がっていきました。
「ブランドは愛されなければなりません。そのためには、まず従業員が会社を愛していないと始まらない。それが大きな力を生み出します。最も大事なのは、現場の愛なのです」
会社はわずか2年で驚くほどの回復を見せ、数年で過去最高の売上高を記録します。誰もが不可能だと考えた奇跡を、彼はまた成し遂げたのでした。
「企業には、世の中を変えていく使命があります。それは企業の役割ではないと考える人もいるかもしれませんが、企業の役割は変わりつつあると私は思っています」
「小さなことに気づくべきだ」ともシュルツさんは語っていました。異国の地であっても、苦しんでいる人、困っている人に手を差し伸べるのは当然だと。
「それは正しいことだからです。企業は利益や効率を常に求めている。しかし、私の経験から言えばそれを持続できる唯一の方法は、正しいことをすることです。そうすれば素晴らしい人材が来てくれる。価値観をしっかり持った顧客が支持してくれる。勇気を持って正しいことをやろう。私は、日本のリーダーにそう呼びかけたい」
「なぜなら、それが誰にもプラスを生むから」シュルツさんはそう語っていました。正しいことをする企業に、人も利益もついてくる。スターバックスは、まさにそれを実践したのです。
連載:上阪徹の名言百出
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